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魔王城の広間を、青年が一人歩いていた。
広間の大きな扉は破壊され、煙が上がっている。その向こうでは、城を守っていた魔物たちの死体が積み重なっているのが見えた。
膨大な数の魔物と戦ったというのに、彼の身体には怪我一つない。それどころか息一つ乱していないのだ。
普通の人間が魔物に傷を負わせることすらできないのと同じように、魔物たちも彼に傷一つ負わせることはできない。
ただ一人、城の主以外は――
広間の奥にある真っ赤なぶ厚いカーテンが揺れ、一人の女性が姿を現す。
カーテンと同じ、豪華な深紅のドレスを身にまとった小柄で美しい女性だ。
しかし背中と耳の辺りに蝙蝠型の漆黒の翼があり、長い黒髪の間からのぞく耳は長くとがっていた。瞳は大きめだが細く、決して人がもちえぬ虹色の光を放っている。
通った鼻筋の下には、薄めの小さな唇が膨らんでいる。
現れた人影を捉えた瞬間、青年は唸り声に近い低い声をあげ、敵の名を呼んだ。
「……魔王アリスフィリア」
*
平和だった世界に突如現れた魔王。
それは自らの化身である魔物を生み出し、瞬く間に世界を蹂躙していった。
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