魔王アリスフィリアと愛憎の勇者

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 魔王の肌に触れる前に、剣が砕け散った。  咄嗟に魔法で攻撃を続けようとしたが、アリスフィリアが何かを呟いた瞬間、全ての魔法が解除されてしまった。かけ直そうとしても彼の中の魔力は、反応しない。恐らく魔法自体、封じられてしまったのだろう。    武器を失い、魔法を奪われ丸腰になった彼の身体に、アリスフィリアの手が伸びる。 (この距離だと……避けられないっ!)  何もできない無力さを噛みしめながらも、心だけは最期まで屈しないと、勇者は魔王の虹色に輝く瞳を睨みつけた。  次の瞬間、 「勇者様、会いたかったわっ‼」  アリスフィリアが彼の身体にしがみついたのだ。  勢いがついたまま抱き着いたため、二人はバランスを崩し、勇者が下になるような形で床に倒れてしまった。  咄嗟のことに受け身もとれず、後頭部を強く打ち、痛みで顔を歪める勇者。彼の視界にアリスフィリアが映った。  それはそれは、嬉しくて堪らない、と言わんばかりに蕩けた笑みを浮かべる魔王の姿が。 「ああ……ずっとずっとあなたがここに来るのを心待ちにしていたのよ? こうして会えてとても嬉しいわ、勇者様」
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