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新しい野望
翌日、クライアス殿下はブレッスド公爵家を訪れ、ブレッスド公爵と公爵夫人から3時間説教をされ、リルフィーネに髪飾りをプレゼントした。何やら魔法を防ぐ事が出来る事と、殿下のブローチと揃いである事を必死に説明していた。
「殿下、もしかして殿下が血迷ったのは、魅了のせいだと思ってます?」髪飾りを見つめてリルフィーネがたずねた時、クライアス殿下の苦悶する表情を初めて見た。
「いや。王族にはそういった類いの魔術は防げるよう、衣類に魔術を施した糸で刺繍をしてある。彼女を愛しいと思う気持ちは、100%私の物だ。」
その言葉で公爵の説教が1時間伸びる事になった。
それでも。リルフィーネは、その言葉で髪飾りを受け取る事にしたのだ。
(嫌ったままでいいと思うと、謝罪を受け入れ安かったのよね。殿下は私を完全な被害者にしてくれた。)
皇后陛下と謁見の日、その髪飾りを付けて、皇后陛下の前にクライアス殿下と2人で立った。クライアス殿下の胸に、揃いのブローチがついていた。ティーリアの時とは違い、触れ合うことはなく、少しだけ離れて各々が立っていた。
「それで、貴方は愛より地位を選んだの?」
「そう思って頂いて構いません。」
開き直った殿下は、とても潔かった。クライアスの隣に立っていて、これ程心が軽くいられるは初めてだと驚いた。皇太子殿下に相応しく、恥のないようにと考えていたが……。
「フィーネちゃん、こんな男でいいの?」
「皇后陛下のお気持ちに、従います。」
言葉だけはそのままに、本当に困っていますという顔でにが笑う。
(こんな男のために、見栄を貼り続けたり、無理をする必要なんかないわ。ありのままの私でも、この男にはお釣りがくる!)
「別にクライアスじゃなくてもいいのよ?フィーネちゃんが皇后を継いでくれるなら。」
皇后陛下の言葉に、うさぎのようにびくつくクライアスは、リルフィーネの心を十分に満たすほど滑稽だった。
「では陛下。クライアス殿下が私に相応しくなるよう、ご尽力願えますか?」
「フィーネちゃんのためなら、任せてちょうだい。」
クライアス殿下の頬が引きっているのを、顎を少し上げて、鼻で笑う。
そして、今リルフィーネの髪はハーフアップをして、クライアス殿下からの髪飾りを付けている。
3日目にして、ようやく学校へ通い始められる。
学校での失態を思えば恥ずかしくて、皆にどんな顔をすればいいやらと悩むが、新しい気持ちで通い始める学校に興奮していた。
(部活動も入りたいし、お友達も家柄に関係なく増やしてみたいわ。)
クライアス殿下が多方から代わる代わる説教を受けている間、皇后陛下とお茶をしながら、今までの胸の内を全て話した。
受講する講義が多すぎて、ストレスになっている事。殿下は新しい恋する余裕があるのに、自分には友達を1人増やす時間も無いこと。こんなことがあったのに、クライアス殿下のためにもう一度あの生活に戻るつもりは無いこと。自分の代わりがいないのは、正直辛いこと。
皇后陛下は甘いお菓子と一緒に、リルフィーネの気持ちを飲み込んでくれた。
講義の時間は3分の2に減らしてもらい、自由な時間が増えた。登下校は、学校の時間割に合わせて、追加の講義は家庭教師に変更。部活動の許可まで貰えた。
余計なのは、新しいお友達を作りたいのならと、王位継承権をもつ男性を3人紹介される事だ。
「クライアスには、危機感を持たせていた方がいいと思うの。」
そう言われてしまえば、皇后陛下のご意志に従うしかない。
「代わりに、講義を一緒に受けたいというお友達がいたら、王妃教育の特秘授業以外でしたら受けさせてもいいわよ?」と仰ってくれた。
(受講する事に慣れて貰えば、王妃教育を続けれる人だって出てくるかもしれない!)
リルフィーネがニコニコと馬車に揺られている様をセバスは暖かく見守っていた。
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