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教室に着くと、いつもの顔ぶれのご令嬢達がすぐにリルフィーネの周りに集まってくる。
「リルフィーネ様、ごきげんよう。」
「ごきげんよう、マリーナ様。ミマリア様。」
「お身体はもう宜しいのですか?」
「はい。大丈夫です。ご心配、ありがとうございます。ミマリア様。」
(まずはこの2人からね!)
「マリーナ様、ミマリア様。少しおは……」
話をしたいと告げる前に、教室がざわめく。騒ぎは廊下からで、すぐに原因と思われるクライアスが教室に入ってきた。
「リルフィーネ。酷いじゃないか!迎えに行くと伝えたはずだっ!」
「殿下、お断り申し上げました。」
クライアス殿下の声を荒らげた姿に、誰もが二度見している。それはリルフィーネにも向けられていた。
元来の2人は学園で触れ合うことは殆どない。リルフィーネは分刻みのスケジュールをこなす事に必死だったし、クライアス殿下に相応しく装う事で儚げな言葉数少ないご令嬢とされてきた。これは幼い時にジョセフィニアから「ボロが出るから喋るな」という教えを固く守ってきたからだ。そんな婚約者を、「真面目で面白みのないご令嬢だ。」と言い、興味を示さなかったのがクライアスだ。
「これからは、そばに居て話し合おうと言ったではないか。ティーリア嬢した事は、全て君にもしたいと思っている。」
教室がピシリと固まった。
「リルフィーネ公爵令嬢に、ティーリア嬢の事を話してはならない。」
誰が言ったのか、このクラスでの暗黙の了解となっていた。周りの空気が固まったのを、リルフィーネはしまったと思ったが、でも、と思い直す。
(私に落ち度は無いわけだし、クライアス殿下がティアに陶酔していたのは皆知ってるし。)
すぐにバレるであろう事を隠しても仕方ないと、リルフィーネも開き直る。
「皇后陛下に言われたからと、取ってつけたように優しくして頂かなくて結構です。私は私の務めから逃げませんので、殿下は先に緩んだ頭を引き締めてからいらしてください。」
ニッコリ笑うと、クライアスまで一緒に固まった。
(あ、ついでに……。)
「殿下に教えて頂かなくても、私とティアは友人となり親しいので、彼女の良いところなど既に知っています。」
ティアは、魅了のコントロールが着くまでは登校出来ないと報告を受けているので、先に釘を刺しておく。クライアスの様子を見ていると、寝返ってティーリアをいじめ出す馬鹿が現れないとも言えない。
「な、なぜだっ!!なぜ、ティーリア嬢には優しく出来て、私にはそんなに冷たいのだ!?普通逆では無いのか!!」
「殿下。それは嫉妬している男女の話です。」
だから、当てはまりません。という言葉は飲み込んだ。
「殿下、私お友達とお話をしたいのですけど?よろしいでしょうか?」
クライアスはリルフィーネを睨みつけると、「昼にまた来る!」と言い捨てて、自分のクラスへ帰っていった。
「り、リルフィーネ様!!ついにっ!」
振り向けば、いつも大人しく穏やかに微笑む花のようなミマリア様が、感極まると言った様子で目を輝かせている。
「お話を聞かせていただけますか?」
マリーナはいつも変わらず、冷静にリルフィーネの予定を管理してくれているが、今はどことなく嬉しそうに見える。この2人なら、きっとこれからも私の味方でいてくれる。
「はいっ。」
リルフィーネの満面の笑みに、もう一度教室内がざわめく事になった。
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