リルフィーネの味方

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「だから、ね?お願い。」 クライアスがリルフィーネの手を取り、唇がつきそうなくらい引き寄せて、上目遣いにオネダリをする。 「…何がでしょうか?殿下は。どうしてこのような事になっているのか、忘れてませんか?」 リルフィーネの目にブリザードが吹く。 仲裁に入ったのは、マリーナだった。 「このままでは、食事を取り逃してしまいます。」 そう言って、殿下の隣を進めた。マリーナとしては、殿下の情報も気になっていたのだろう。 カフェテリアの個室には、殿下直属の給仕が2人おり、リルフィーネの好みの昼食を用意してくれていた。 「これ。リルフィーネが好きな果物のソースだよ。」とか、 「このお茶は、先日他国の商人が初めて持ってきたもので……。」 と、給仕よりも落ち着きがなくリルフィーネに話しかけるクライアスに、リルフィーネよりもマリーナやミマリアの方がため息をついていた。 「クライアス殿下はどなたが紹介されるのか、ご存知なのですか?」 マリーナが煮え切らないと話を切り出した。 クライアスは少し言葉を詰まらせていたが、リルフィーネが「殿下!」と促せば、諦めたように話す。 「1人は確実に叔父上の長子ロベルト・デューク・フォン・ロスタだと思う。」 「ロベルト様!?」 ロスタ公爵に付き添って、何年も外国を行き来する、顔は知らないものの活躍ぶりは国内でも有名だ。 「けれどロベルト様は今年で27歳ではございませんか?」 いつも口を挟まないミマリアも、ついつい陛下に質問する。 「27歳であれば、ご結婚されているのでは?」 ミマリアの心配に、クライアスは首を横に振る。 「ロベルトは少し女性に対してきらいがあって、未だに婚約者もいない。」 なるほどと頷き、小さくちぎったパンを口に入れるリルフィーネに、クライスは不満を表す。 「殿下。勘違いされてますから、言っておきますね。私は、皇帝陛下と皇后陛下のご意志に誓約をたてたので、私の意向など関係ありませんよ?」 「自分の結婚相手の話だぞ?もう少し関心を寄せるべきだ。」 「6年間結婚相手だと思ってきた相手も、変わりかねない今日ですから。結婚する前日くらいじゃないと実感が沸かない気がします。」 「ゔぅ……。」 食後のデザートとお茶を入れてもらう時には、クライアスは気落ちして話しかけなくなったのをいい事に、女子会と化す。 「陛下、とても美味しかったです。ありがとうございます。」と、お礼を言うと「あぁ。」と嬉しそうに微笑み、気を取り直してリルフィーネを教室に送ってくれる。 これは今までより大変になりそうだと笑いながら、マリーナは自分の席に座る。 授業を受けながら、朝から聞いた情報を整理していると、少しだけ疑問が浮かぶ。 リルフィーネは知らないが、マリーナはリルフィーネに仕えるために、式典の準備やリルフィーネの衣装のチェックなどを自ら願い出て行っていた。 (魔法避けの下着は、式典の時しか使用しないのでは?クライアス殿下だけ、常備していたのかしら?) そのおかげで「魅了」の魔法はかからなかったのに、婚約が危うくなる事件を起こしてしまうなど、なんとも間の抜けた話だ。 マリーナはリルフィーネの言葉を思い出す。 今回の件でリルフィーネの将来だけは確かなものとなってしまった。誰と結婚するとしても、リルフィーネは王妃になるのだろう。それによって、リルフィーネの危険だけが酷く高くなった。クライアス殿下だけではなく、多くの者が多様な気持ちを隠したままリルフィーネに近づいてくる。マリーナは1人、これからを案じてため息を吐いた。
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