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リルフィーネを校門に乗せていた馬車は公爵家所有の物で、停止場で馬に水を飲ませていた。
「良かったわ!間に合った。」
「お嬢様!どうなさいましたか!!」
同行したセバスが顔色を悪くする。リルフィーナが駆け寄ってきたのだ。無理もない。
「お願いがあるの。すぐに王宮に連れて行って!!」
「旦那様に何かございましたか!?」
「え、ええ!そうなの!!お願い、急いで!!」
「馬はこのまま出せます。お嬢様こちらに。」
セバスはすぐに御者に目配せをして、馬の向きを変えさせる。
リルフィーネが急ぎ王宮へ向かうとなれば、王宮に務める公爵に会いにいくと思ったのだろう。もともとは王妃に直談判をと決していたが、父に言うのもそれはそれでいい気がする。
走り出した馬と共に、リルフィーネの心も自由を勝ち取るために駆け出していた。
馬車と乗馬のかけっこは直ぐに勝敗が決まる。
追いついた騎士達は、外から声を張り上げて静止を呼びかけるも、公爵家の馬車の前に出ることは出来ない。もちろん、犯罪絡みであれば公爵家だろうと取り押さえられるのだが、無言を貫くリルフィーネはただ学校を抜け出し、父の所へ駆けつける罪のない公爵令嬢なので、騎士も強く出れずにいる。
馬車の隣で声を張り上げて、静止を呼びかけたり、説明を求めたりしている。
セバスが不安そうにチラチラとこちらを見ているが、リルフィーネはただ前を向いて何も応えなかった。
本来ならこんな風に静止を求められる必要なんてない。こんなに焦ってるなんて、本当は私が何をしに行くか分かってるのね。
「セバス、お願い。私をお父様の所へ連れて行って。」
「……承知しております。大丈夫でございます。」
セバスは不安ながらもきちんと応えてくれた。
学園から王宮はそう遠くなく、王宮の入口には早馬で伝達されたのであろう、リルフィーナの父親である、ブレッスド公爵が仁王立ちしている。その前には、騎士が3名。
馬車を囲む騎士が3人。
(まるで、犯罪者が連行されてるみたいね。)
王宮の前に着くと、セバスが先におり、リルフィーネをエスコートして下ろしてくれる。
「ご機嫌よう。お父様。」
王宮の前なので、捨てていた礼儀を拾い上げ淑女の挨拶を行う。
「フィーネ。どうしたというのだ。凄い騒ぎではないか。」
リルフィーネを奪うように腕の中に囲い、騎士たちを睨みつける。ブレッスド公爵はリルフィーネを溺愛しており、騎士が囲っていても悪いのは騎士だと決めつけていた。
「お父様っ。私大切なお話をしたくまいりましたの。お父様と……皇后陛下に。」
ざわめきは覚悟の上だった。
「ま、まずは私に話してご覧。その後、話を耳に入れるかどうか検討しよう。」
笑顔の申し出だったが、ブレッスド公爵の目がぎらりと揺れた。溺愛する娘であっても、すんなり通せる申し出ではない。早馬から知らされた内容では、娘がはしたなく学園を走り回り、授業を無断休講し、騎士たちの静止も耳を貸さずここまでやって来たというのだ。いくら日頃の行いが良くても、5年分の失態を今日一日で犯されている気がしていた。
「い、い、え!お父様。申し訳ありませんが、皇后陛下にもご同席願います!」
「フィーネっ!!」
「お父様。お願いします。皇后陛下とご一緒に、私の話を聞いてください。」
元来公爵はリルフィーネの頼みにはとても弱い。だというのに、首を縦にふらず、ぐぅっと変な音を口から漏らしている。
「さすがはブレッスド公爵令嬢。我が姫君に負けず劣らずの業が深いご様子で。」
そんな爆弾を投下され、振り返れば2人の騎士を引き連れた、サグアロー大佐が現れる。
サグアロー大佐の娘は4歳。その娘と変わらないくらい我儘であると言われれば、誰だって戦慄する。更に大人の男性にハッキリと悪態をつかれる事は、リルフィーネを酷く傷つけた。
(でも。負けちゃだめ!!今挫けたら、全てを受けいる事になる!)
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