魅力的な友人

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リルフィーネは大きく振り上げた手を、クライアス殿下の頬に向けて振り下ろした。そして、取ってつけた言い訳をする。 「殿下、虫が着いております。」 そこにブレッスド公爵が便乗して、殿下の胸ぐらを鷲掴む。 「これはいけない。刺すかもしれませんので、部屋を出られた方が良いかと。」 ズルズルと扉まで引きづり、兵士が扉を開けたあと、外へと放り出した。 「殿下のお心は分かりました。また、明日お伺い致します。」 言葉だけは丁寧に、けれど扉を閉めるよう指示を出す。クライアスは痛みの走る頬に手を当て、間抜けな顔のまま廊下の冷たさを背中と臀部に感じていた。 「…なんなの。あいつ!私、本当にあんなやつと結婚しなきゃいけないの!!!」 リルフィーネは堰を切ったように悪態付く。 「…リルフィーネさまっ。」 ティーリア嬢がイヤイヤと首を振って泣いている。先程の涙とは違い、リルフィーネを案じて泣いているのだ。 サグアロー大佐だけは、少し同情を含めた眼差しで扉を見つめていた。間違いはできるだけ早く正さないといけない。それこそ、己の気持ちなどそこにはない。今度こそ、彼は正しい王族としての姿を無様に皆に知らしめただけなのだ。だが、自分の娘の婿だと考えると、ブレッスド公爵を責められなかった。彼は、ほかの女の事を一生思って、リルフィーネと結婚すると言っているのだ。 「リルフィーネ様、ごめんなさいっ。私っ…」 ティーリア嬢が噎せながら、言葉を紡ぐのを止める。そして、イタズラを思いついた子供のような顔で笑う。 「ティーリア様をそんなに泣かないでください。そうだ。それでしたら、私のワガママを少し聞いていただけますか?」 ティーリア嬢はこくこくと頷く。 「聖なる力を見てみたいのです。ちょうどティーリア様の目が赤く腫れてしまっていますので、見せては頂けませんか?」 120年前に無くなったとされる聖なる力を見たいと、リルフィーネは目を輝かせる。 「…はいっ。リルフィーネ様、何なりとおっしゃってください!」 フラフラと金髪のカーブがかった髪が大きな瞳の青色を引き立て、赤く腫れた頬さへも愛らしく見せる。 「精霊さん。私の痛いところを取り除いてください。」 魔法を使う時、全ての人間は精霊に助けを乞う。精霊の名前を呼び、定められた願いの言葉を捧げ、自分の魔力を与えることで魔法は発動する。けれど、ティーリア嬢は何ひとつ、その方法にはならわずに会話をするように精霊に頼んだ。直後、キラキラとした光の粉がティーリア嬢の目元に落ち、赤く腫れた頬を、白くキメの細かい肌へと変えていく。 「ティーリア様!素晴らしいです!!」 ティーリア嬢の手をとって微笑むと、青くすんだ瞳が大きく揺れ、1粒涙が零れた。 「リルフィーネ様。よろしければ、ティアと呼んで頂けませんか?」 その表情の美しさに、リルフィーネは固まった。(こんなに美しい「聖女様」が殿下の後ろ盾を失ったら……。)
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