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「…ええ。ティア様。…そうね。」
何より彼女は平民で育った為に、知識やマナーが不足しており、危なっかしい。これはクライアス殿下じゃなくても、守らなければならないと思わされる。
「ティア様聞いてください。貴族は身分が上のものから問われてから、名前を告げます。それまでは、顔を向かい合わせても、話しかけられても、答えてはいけないのです。聖女様と決まるまでは、どうか覚えておいてください。なので、……お名前を教えてくださいますか?」
ティーリア嬢は少し戸惑いながら、背筋を正す。
「お初にお目にかかります。ティーリア・デルホォレットと申します。」
「ご挨拶、ありがとうございます。私は、リルフィーネ・デューク・フォン・ブレッスドと申します。どうか、フィーネとお呼びください。ティア様。」
「どうか、様など付けないでください。フィーネ様、今日は本当にありがとうございます。私、正直まだよく分かっていなくて…。けれど、フィーネ様がお優しい方だという事と、私や殿下を守ってくださったのだと言うことは分かっております。」
だから…と言葉を続けようとするティーリア嬢は止めた。
「では、私のこともフィーネと。ティアは聖女様になるかもしれないのだから、何でもなんて言ったらダメです。」
「ありがとうございます。フィーネ様っ!…あ。」
フィーネ。ティア。と呼ぶ練習をしていると、わざとらしい咳払いが聞こえる。
「フィーネ。私や、大佐にも紹介願えるかな?」
リルフィーネは、ティーリアにブレッスド公爵を父と、サグアロー大佐を騎士団長だと紹介し、それぞれにティーリアは聖女と紹介した。
部屋の中にいたのだから、決定してはいないとしても、聖なる力を前に「聖女」以外の説明は出来なかった。
「それはそうと、ティーリア嬢。先程から何をキラキラとさせているのでしょうか?」
サグアロー大佐の言葉に、リルフィーネは吹き出した。
「サグアロー大佐!確かに彼女は眩しいくらい可愛らしいですが、その直接的な言葉はいかがなものでしょう?」
ブレッスド公爵はサグアロー大佐の言葉に眉を潜める。そして、ティーリア嬢を凝視すると、少し後ずさった。
「お、お父様??」
「魅了だ。彼女は気づかずに『魅了』を使ってしまっている。」
「…え!そ、それは……」
サグアロー大佐は驚き、ティーリア嬢から少し距離をとる。
(え?、なら。殿下は……。…あ、これ。考えちゃダメな気がする!!)
「テ、ティアったら!皇后陛下に怯えすぎて、中和するために魅了の力に、い、ま、目覚めてしまったのね!!」
なかなか難しい主張だが、この状況ではそれが1番いいはず。
「魅了ってなんですか??私、キラキラしてるんですか??」
等の本人は付いて来れてないが、そこは重要ではない。部屋にいる給仕や騎士が目を合わせくれないので、とりあえずこちらの主張を通しておく事にする。すぐに皇后陛下には報告されることになるだろう。
サグアロー大佐はティーリアを真っ直ぐ見つめて、ブレッスド公爵に頷いてみせる。
「彼女の後ろ盾に私がなろう。私の家は代々魔術が効きにくい。彼女をきちんと教育する上では、そちらの方が良いだろう。」
「もちろんそれがいい。」
リルフィーネの前で首を傾げて、一生懸命話についてこようとしているティーリアは、女性から見ても愛らしい。
「これが、魅了なんですね。」
リルフィーネは、咳払いをしてティーリアにサグアロー大佐の養女になる事を薦める。大切なのは、これまでとは違い、厳しい事を言われるかもしれないが、本当にティーリアの為になると言うことを理解して貰う事だ。親切にしてもらえるから、優しくしてもらえるなら、今のままでいいと思ってしまうと、ティーリアの自由を制限しなくてはならなくなる。
「私、フィーネさ、……フィーネの言う事だったらなんでも信じるわ!」
大丈夫!っと意気込んで頷くティーリアの愛らしさは、魅了の力ではない気がした。
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