どうやら浮気をしているらしい。

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どうやら浮気をしているらしい。

違和感を感じたのは、2日ほど前だった。 リルフィーナは公爵令嬢で、皇太子殿下との婚約を果たしてから人からの視線には慣れている。けれども、このように申し訳なさそうに視線を外される事は初めての事だった。 親しい友人は、リルフィーナを腫れ物に触れるように言葉を選び、ただひたすら甘やかそうと接してくる。 噂程度には、今何が起っているのかは知っていたが、いよいよ信ぴょう性の濃くなる現状にリルフィーネは頭を抱えた。 (親切な友人が教室でのお喋りをご所望ということは、彼の方は庭園か中庭にでもいらっしゃるのかしら。) リルフィーネは内心をお首にも出さずに、ご令嬢達へ笑顔で取り留めのない話をした。けれど、それも限界に近づいていた。 皇族の挙式は、庶民より早く行われる事がしきたりであり、リルフィーネの14歳という歳ではいよいよ婚姻間際とされている。8歳で殿下との婚約を済ませてから、正直な所、恋やら愛やらというものにかまけている時間はなかった。ぎゅうぎゅうに詰められた王妃としての講義や社交に、最低限確保された睡眠時間。愛を育む為にと設けられたお茶会でさへ、殿下や決められたご令嬢以外と話す事は禁じられていた。そこに来ての、殿下の浮気。 リルフィーネの内心など全く知らないマリーナは、本日の予定をリルフィーネに聞かせ始めた。 「リルフィーネ様は、皆様より受講さらる教科が多いですから、放課後に3教科受けられた後は専用の馬車が校門の外で待つとの事でした。」 放課後に3教科となれば、今日の帰宅は9時前となる。何故?馬鹿な浮気男と結婚する為に、私は人の倍ほど働かなくてはならないのか。そう考えてしまったら、もう我慢は難しい物になっていた。 ガタンっと、マナーなど1つも考慮せず椅子を引けば、何事かとリルフィーネに視線が集まる。 「気分が優れませんので、本日は失礼致します。」 微笑みひとつを残して、何も持たずに教室を後にした。淑女は足音を立てて歩くなどもってのほかで、まして走り出したリルフィーネに追いつける者などいない。マリーナが何やら言う声はすぐに遠ざかる。皇太子の婚約者であるリルフィーネに異性は触れることが出来ない。 廊下を走るという奇行に驚き開く目と口を、ざまーみろと鼻で笑う。 ふふっ。全部おわらせてやるわっ! 普段は優しさを演出するめに落とされた目尻が、元来の位置に釣り上がる。強すぎると言われ続けた眼差しを王宮に定めて、ご令嬢あるまじき跳躍で駆け抜けていった。
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