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時代と共に言葉は意味や形を変えていき、そして討論の場に出るときはいつも唐突だ。今日は『おやすみ』の言葉が論議にあがっていた。
まずは世界をつないでいるコンピュータAIの意見。
「論議に上げるまでもない問いです。これは休憩の意味である休みを丁寧に美化しただけの言葉、他者に告げる際『お』という尊敬の意を加えただけのものです。」
すぐに反論を上げたのはこの星で日夜言語を学び続けているアンドロイドだ。
「やはりどれだけ時代が進んでも学習という言葉を知らないAIはダメだな。そもそもなぜ休みを告げる必要があるのか、さらにはそれに尊敬の意をつける意味を理解しなければその理論は成立しない。わずかに残されていた過去の文献にはいくつかの休みに関する言葉があるが・・・」
言語学者の話は結論までが遠かった。数千年前の話が出てきたところで苛立ちを隠しきれず声を上げたのは蝉から進化を遂げた短命な種族であった。
「あー、長い長い。そんな悠長に話してたら僕らの寿命が終わっちゃいそうだよ。『おやすみ』何て簡単だよ。僕らがよく使う親が済んだって意味さ。僕たちの種族は成体から寿命までが短いから死ぬまで動き続けるだろ、理由はもちろん子供を残すため。短い期間で相手を見つけて卵を作る、そんなときに使うんだよ。『あー、親のしての仕事が済んだ。これでやっと親済みだね』ってね。」
この言葉を聞いて鼻で笑ったのは一生飛び続けられる鳥人族だ。
「親が済んで『おやすみ』だなんて笑っちゃうよ。私たちのおやすみは簡単さ。何日も飛び続けてると方向を調整する尾羽の調子がおかしくなっちゃうんだ、そうならないようにするため尾羽を使わずにただ真っ直ぐ飛ぶ期間を作るのさ、その期間が『尾やすみ』。簡単だろ?」
コンピュータAIが再び意見する。
「確かにあなたたちの言う『おやすみ』は存在しています。しかし今回はもっとも古い『おやすみ』、いわば『おやすみ』のルーツ探しであり言語の観点からするとやはり丁寧語を活用した言葉と認識する方が正しいと・・・」
論議は時間と共にヒートアップしていく。それぞれが自分の意見を曲げず、あれは違う、これは違うと討論は続いていった。
そしてこの話を聞いていたこの星でわずかとなった人間が手を挙げて言う。
「あの、寝る時とかに使いませんか?『おやすみなさい』とか、寝る相手に『おやすみー』とかそんな感じで。」
先ほどまでバラバラな意見をしていた四者は首を傾げ、そして同時に声を上げた。
「そもそも『寝る』ってなんだい?」
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