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「もしもし。川村ですが、すみません。今日ちょっとお腹痛くて。……いや、熱はないです。36度5分。でも、1日休ませてください」
スマホをタップして、ミサトはため息をついた。耳の汗がへばりついて、画面はてかてか光っていた。シーツに擦り付けて水気を落とす。ごろん、と寝返りを打った。
シャツをまくって、おへその凹みを感じながら素肌をさする。痛みはない。
人は、仮病というだろうか。そんなことを考えて、ますます気が沈む。
「熱があって」と言って休む方法はなかった。今の世、新型コロナウィルスという世界規模のパンデミックの世。発熱したというだけで世間は大騒ぎとなる。発熱を理由に仕事は「軽く」休めない風潮になっていた。
ミサトは枕に鼻を押し付ける。なぜだか、最近涙もろくなっていた。やはり、休むべきじゃなかったか?……。
しかしどんなに罪悪感はあっても、ミサトは職場に行く気になれなかった。
ミサトは、大手スーパーの正社員として、地元の店舗で働いていた。
コロナ禍だからこそ、スーパーは休むわけにはいかない。客足は確実に増えていた。健康食材への需要が増えた。アルコール消毒やパーテーションの設置など、新しい仕事もできた。
ミサトは考えた。どうしたら、安全に足を運んでもらえるか。どうしたらステイホームを楽しんでもらえるか。エッセンシャルワーカーの私たちだからこそ、今できることがあるのではないのか。陳列を工夫したり、多くの企画書も提出したりした。
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