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『カツンッ』
『最終準備が完了いたしました。提督閣下』
軍靴の踵を合わせて、直立不動の姿勢で報告を行う部下に対して振り向いて頷くと。
『判った。艦長』
銀河連邦艦隊旗艦の艦橋には、我々人類発祥の地である地球の巨大な立体映像が映し出されているが。
『総員気を付けっ!。我々人類の発祥地である母星に対して最後の敬礼っ』
『『カツンッ。シュッ』』
艦隊の司令官である私の号令に従い、艦橋に居る乗組員の全員が、直立不動の姿勢で敬礼を行ったのを確認してから。
『直れっ』
私の二度目の号令に従い、乗組員の全員が再び艦橋での任務に復帰したのを確認すると。
『バンアレン帯に展開している封鎖艦隊から、異常の報告は無いな?。艦長』
『はい。提督閣下。地球圏に無断侵入を試みる艦艇は、有人無人の如何を問わずに全て拿捕するか撃沈いたしております』
人類が発祥地である地球を離れて、銀河系全体に生息圏を広げて既に五百年以上が経過をしているが。
『母星回帰主義者達も、ようやく諦めたか?。最後まで油断は出来んがな』
『はい。提督閣下』
人類の大多数が地球を離れて銀河系全体で暮らすようになると、地球発祥の様々な宗教が融合して、複数の宗教の聖地のある地球自体を人類発祥の聖地とする考え方が広がるようになった。
『惑星破壊兵器のエネルギー充填は完了いたしております。提督閣下』
惑星破壊兵器担当の専任将校から、やや緊張を含んだ声での報告を聞いた私は頷いて。
『決定を下したのは主権者である国民により選出された議員により構成される議会だ。我々民主共和制の銀河連邦の軍人は、文民統制の下で議会の決定に従うのみだ』
『はい。提督閣下』
地球を聖地とする母星回帰主義者達も、最初は無害な宗教団体だったが。徐々に尖鋭化して、銀河連邦の首都を深刻な環境破壊の結果荒廃している地球に移転するべきだと主張し、銀河系全体で破壊活動を行う過激派組織と成り果てた。
『この五十年間の間は、宇宙海賊の襲撃による犠牲者数よりも、尖鋭化した母星回帰主義者の破壊活動による犠牲者数の方が上回り続けている。問題の根源である地球の破壊を民主的な手続きを踏んだ上で決定された議会の命令には、我々民主共和制国家の軍人は従う義務がある』
銀河連邦艦隊の旗艦の艦橋に居る乗組員の全員が、司令官である私の話を黙って聞いているが。内心では惑星破壊兵器で人類発祥の地である地球を破壊するという決定を下した議会に対して、他に解決手段は無かったのかと言いたい気持ちはあると思う。
『貴官らも既に承知している通り、地球に違法に居住していた狂信的な母星回帰主義者は全員を強制退去させている。貴重な歴史的建造物も全て移転済みだ。後は本職の責任の元で惑星破壊兵器を起動させて地球を破壊するのみだ』
『ゴクッ』
誰か、あるいは複数かも知れないが。緊張により生唾を飲み込む音が艦橋に響いた。
『スッ。フヨン』
艦隊司令官である私が指を振ると、旗艦の艦橋の空中に惑星破壊兵器を起動させるスイッチが現れた。
『長い間ありがとうございました。おやすみなさい』
地球を映し出している立体映像に向けて最後に謝罪の気持ちを込めた感謝の言葉を述べると、惑星破壊兵器を起動して人類発祥の地である母星を永眠させた。
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