あたたかおやすみスイッチ

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 昨夜も疲れていたミカは、夫であるケンにお願いした。 「添い寝お願い〜」 これはおやすみスイッチを入れて欲しいというミカのお願いだ。  ミカはちょっと特異なジャンルのライターなのだが、締め切りが近いと1日中仕事の事ばかり考えてしまう。そうすると、夜になって眠ろうと思っても脳が興奮しているのかなかなか寝付けない。 そんな時にケンに「添い寝」をお願いしているのだ。 ケンはハイハイと嫌な顔一つせずミカの寝室に行き、すでに左側を下にして横になっているミカに左手で腕枕をして右手で髪を撫でる。 子供を寝かすみたいに優しく。 この体勢だとお互いの顔が見えないが背中にあたる温かさが心地よい。 そのままベッドでたわいもないことを話していると、ミカは5分くらいで眠ってしまう。 しかも朝まで快眠できる。  ミカがこのことに気づいたのは今から5年前の45歳くらいの時。 子供はもう巣立っていていなかったので家には手間のかからない大人二人。 どんどん仕事を入れて頑張っていた時だ。  ある日の夕方、疲れて畳にゴロンと横になっていたミカはそのまま眠ってしまっていた。 しばらくして温かく優しい感覚を覚え、なんだろうと目を開けずに起きた。 その温かい感覚はケンの手だった。 仕事から帰ったケンが眠っているミカの横に座ってビールを飲み、片方の手でミカの頭を撫でていたのだ。 ミカは照れくさかったが、あまりの気持ちよさにそのままにしていると 「がんばってるね。お疲れさん」 とケンが優しく言った。 ミカは自分の満足のために、ただ仕事を認められたいためにがむしゃらにやっているだけなのに。 ケンの言葉に泣きそうになった。 そのあと撫でられながらまた眠りについた。 気持ちのいい眠りだった。  その後からは一週間に一度はお願いしている「添い寝と頭なでなで」 寝る前に長湯に入るより、ハーブティーを飲むより、ストレッチするより、α波の音楽聴くよりも、ずっと効果のあるミカのおやすみスイッチなのだった。 (終わり)
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