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次の朝目覚めると、あなたはもういなかった。
……またやってしまった。
私は自分の髪をわしゃわしゃと乱しながら、後悔のため息をつく。
散らかったままの部屋も、シンクに溜まった洗い物も、洗濯カゴの中に乱雑に詰め込まれた衣服も、昨日の、いや、先週末から変わらずそのままだった。
あなたのせいで家事をする時間もなくなり、どんどんダメな人間になっているような気がする。
だけどあなたを求めてしまうわたしもどこかにいて、ベッドの中にいる時の幸福感が私の心を満たしていくのも事実であり、否めない。
このままではいけない、あなたとは離れないと。
分かってはいるのに、あなたが部屋に来るとどう足掻いても勝つことが出来ない。
コンビニで買ってきたパンをかじって、朝の支度を簡単に済ますと、家を出る。
いつもと変わらない風景に飲み込まれながら、私は昨夜、誘うように甘く、だけど気だるげに、意地悪く笑ったあなたの顔を思い出していた。
次に会ってもきっと、また流されてしまうのだろう。
あなたが望むように、私は手のひらで転がされる。
電車に乗り込むと、運良く席が空いていた。
何人か立っている人がいるけれど、誰も座ろうとする様子がないので、ありがたく座らせて貰うことにする。
不規則に揺れる電車にふと眠くなって、かくんとよろけた左側。そこには彼が座っていた。
「……どうして」
私の問いかけにあなたは答えることなく、昨夜と同じように意地の悪い笑みを浮かべるだけだった。
「……おやすみ」
耳朶にかかる気だるげなあなたの吐息混じりの声に、私はそっと意識を手放す。
こんなにも私を惑わせ、誘い、困らせるあなたの名前。それは……。
睡魔。
[完]
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