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終電に乗って、家に帰る。
……どうせ帰っても1人だけど。
そんなことを考えながら部屋のドアの前に立つと、「あなた」がいる気配がした。
インターホンを押すと、軽装のあなたが気だるげにドアを開けてくれる。
「おかえり」
低く単調な声で、あなたは私を部屋に招き入れた。
私が靴を脱ぐ間に、あなたはドアの鍵を閉め、チェーンをかける。
「逃がさないよ」の合図。
「風呂、できてるから。先入っていいよ」
「……うん」
私はメイクを落とすと服を脱ぎ、水圧の弱いシャワーで仕事の疲れを洗い流した。
緩いプルオーバーのパーカーとサルエルパンツに着替えて部屋に入ると、上裸になったあなたはスマホをいじっていた。
「おかえり」
あなたは私の気配に気がつくと、立ち上がって私の額にそっとキスを落とす。
瞳に妖しい光を溶かしたあなたは、唇で私の首筋をなぞりながら、すっとパーカーの裾に手を入れた。
あなたの指はするすると私の腹を、胸を這い、少し躊躇いながら下着の中へ……。
「……やめてよ!」
私はあなたから1歩離れると、パシ、と腕を叩いた。
あなたは一瞬、驚いたように目を丸くしたけれど、すぐにサディスティックな笑みを浮かべ直す。
「……ふーん、いつまでそんなことが言ってられるかな。黙って俺に委ねとけよ」
あなたは私をベッドに押し倒す。こうなってしまったら、もうあなたに抵抗する術なんて無い。
私は全てをあなたに預けるように、意識を手放してしまった。
「……おやすみ」
……どのくらい経っただろうか。薄れていく意識の中で、彼の気だるげな低い声が、私の鼓膜をそっと揺らすのを感じた。
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