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「人前でいちゃつきたがる奴と付き合ったら、たぶんこんな感じだよ?」
「そんな人いるんですか?」
「見せつけたい男なんてたくさんいる」
「私は、どうしたらいいんですか?」
「どうすればいいと思う?」
まるで生徒と先生だ。生徒の自発性に委ねて答えを考えさせるタイプの先生。ただ、困ったことに私は問いに対する正確な答えを持ち合わせていない。必ず答えのある数学とは、わけが違う。
想像と経験がものを言う。
恋愛経験なんてほぼゼロに等しい私は想像するしかないのだが、お腹にある手の温度と妖艶な目元と大人びた香りと色めくオーラとが私の五感の全てを奪って、ずっと前から脳内が思考停止のアラートを発してフリーズしている。
途方にくれた思考停止状態の私は、ただ体を硬くしていた。
「答え、決まった?」
沈黙を破る声に、模範解答を教えてほしいと視線を送ってみる。その視線を押しのけるように、逃げる隙も与えぬまま近づいてきた端正な顔は妖しい笑みを浮かべたままだ。
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