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三月中旬の日曜日のことだった。
駅前通りは、人通りが多い。年齢層もばらばらで、部活帰りの学生や日曜出勤の壮年の会社員、今から飲みに出かける様子の楽しげな若者達は、互いの顔を見ることなくすれ違っては各々の目的地へと足を運んでいる。
その中を家路を行くスーツ姿の若い男ふたりは、横断歩道の手前で信号が青になるのを待っていた。
「それにしても、森下さんの彼女さん、きれいっすね」
職場の後輩だろうか、少し砕けた言い方に仲の良さが伺える。
「どっちの?」
先輩からのまさかの言葉に、後輩は「え?」と目を丸くしている。
「先輩。二股っすか?」
「まあな」
先輩の口調がどこか誇らしげだ。二股なんて褒められたものではないが、モテる男と見られたいのだろうか。
「どっちが本命っすか?」
「お前と会った時にいた方」
「ですよね。すごくきれいで、何というか色っぽいというか」
「俺の彼女だから盗るなよ?」
「盗りませんよ、いや、盗れませんって」
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