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去り際、ちらりとカメラマンの顔をのぞくと、撮った写真の確認をしているのか再び真剣な眼差しに戻っていて、心臓がひとつ大きく高鳴った。
私も、この人みたいになりたい。
人の一瞬の笑顔を切り取り、写真に残す仕事に就きたい。
一種の憧れにも似た感情が、私の胸を席巻して離れない。
この人とは二度と会うことはない。だから、脳裏にひっそりとその眼差しを焼きつけておくことにした。
——それからの五年間は、予想だにしないことが起きた。
この撮影から半年後、本城結亜はカメラマンではない一般男性と結婚してあっさりと芸能界から姿を消した。
公務員志望だった私は一気に路線変更し、大学卒業後は地元の写真館に就職した。
そして、今。
夜桜を見る私の側で、あのカメラマンが微笑んでいる。
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