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少しずつ時がたち、少女は母の言葉の意味が少しずつわかるようになってきた。
時折母の部屋から悲鳴が上がる。
頭を狂わせながら、母は懸命に祈りの言葉を捧げていた。
それが私たちにできる唯一のことなのだからと。
少女は夜の間中、家の中のあらゆるものに、「おやすみなさい」とあいさつをして回った。
頭を狂わせ、ひとつの抜けもなく、少女は淡々と、ただ時間を過ごしていく。
気が付けばゆっくりと日が昇ってくる。
「おやすみなさい、夜」
少女はそういうと、「夜」と呼ばれたベッドに倒れこんだ。
「おなかがすいたわ…」
その声放たれた声は小さく、そしてすぐにかき消された。
日の光の中で、母の声が小さく消えていくのがわかった。
彼女は、もうじき死ぬだろう。
そしたら、私はひとりになる。
少女は目を開け、うつろに天井を見上げた。
「おなかがすいたわ…」
少女はもう120年間も何も食べていない。
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