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「おやすみなさい、ディオール」
暗い部屋の隅で、少女はひとりカップに向かいそうつぶやく。
手元のカップは、もちろん返事などするはずもなく、夜の静けさの中に沈んでいた。
「おやすみなさい、エリー」
少女は今度はすぐ隣の別のカップを手にすると、そうつぶやいた。
エリーと呼ばれたそのカップもまた、少女の手の中に静かに抱かれているだけだった。
少女はエリーと呼ばれたカップを棚に戻すと、また別のカップを取り出した。
「おやすみなさい、ジョセフ」
少女はそうつぶやくと、ジョセフと呼ばれたカップに優しく口づけをした。
暗闇のなかに、少女の声だけだ響いていた。
ジョセフを手に、少女はふと、昔のことを思い出した。
忌み嫌われていた、あの時を。
少女も、少女の母も、ずっと、この暗闇の中でただ孤独にひっそりと生きてきた。
少女の母は暗闇のなか、一人部屋にこもり、ひたすた、祈りを捧げていた。
そして、朝、日が昇るころ、少女と母は眠りにつく。
日が昇るまで続く、そのぶつぶつと響く声を少女は聞きながら、少女はその不思議さに首をかしげていた。
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