R.I.P.

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R.I.P.

 角を曲がった瞬間、突っ込んで来たトラック。 一瞬だった。 31歳、事故死。 頭の中に幼い頃の自分の顔が浮かんで来て、ようやく「あぁ俺は死ぬのだ」と気がついた。31年分の走馬灯を見ていた。4歳の頃の自分。近所の友達と一緒に、草むらの中を駆け回っている。次は12歳の頃の自分。幼い自分が、修学旅行で、お土産にご当地キーホルダーを買っている。  本当は現地で有名な、葡萄のお菓子が食べたかったのに、少し割高だったから遠慮してしまった。今思えば……いや、そもそもどうして俺はこんな場面を思い出しているんだろう? もっと重要な場面はあったはずなのに。頭の中に走馬灯として浮かんでくる映像は、実に脈略のない、どうでもいいような内容ばかりだった。  走馬灯が駆け巡っていく。15歳の頃の自分。受験勉強をサボって、ノートに落書きばかりしている。24歳の頃の自分。当時付き合っていた彼女が違法で飼っていたタスマニアンデビルの餌箱。28歳。就職を決意し、履歴書を買うその金でパチンコに向かう自分。34歳。ジャズピアニストになると決意したあの日。46歳。暴飲暴食が祟って、ガンが発覚。必死の治療も虚しく、俺は病室で息を引き取る……。 あっという間だった。 48歳、病死。 頭の中に幼い頃の自分の顔が浮かんで来て、ようやく「あぁ俺は死ぬのだ」と気がついた。48年分の走馬灯を見ていた。4歳の頃の自分……。
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