驟雨と祈りの狭間にて

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 「おはよう」  制服のネクタイを結びながら、リビングに入る。  父さんと母さんがいて、朝食を用意してくれていた。  「おはよう、いつき」  「・・・母さん、無理して起きなくてもいいのに」  「無理なんてしてないわよ。早く食べちゃって」  そう言うと、母さんは食べやすくカットした林檎の皿を仏壇に供える。  父さんは黙って新聞を見ていた。  「おはよう、しおり」    母さんはそう言って、手を合わせる。  目を瞑り、しばらく黙っていた。  僕はプレートに乗った朝食を見る。  食パンが少し焦げている、と思いながら隣のオムレツを一口食べる。味がしなかった。  ちらっと母さんを見るが、仏壇の写真に向かって笑顔で話している。  僕はオムレツを一気にかき込み、水で流し込んだ。  写真の中には、控えめに笑うしおりがいる。  僕と父さんと母さんは、妹のしおりが死んでからおかしくなった。  
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