驟雨と祈りの狭間にて

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   休み時間にトイレに入ろうとして、声が聞こえてきた。  「白石の兄貴死んじゃったじゃん?」  「あーそれなぁ。俺の先輩とも仲良かったんだよ。バスケ部のOBで」  「めっちゃ人気者でモテてたって聞いた」  「らしいよ。でもさぁ、一部でちょっとヤバい噂もあるらしいけど・・・」  僕はトイレに入るのをやめて、歩き出す。  「ななせ・・・本当にかわいそう・・・」  「お兄さんと仲良かったんだよねー」  「すごく妹思いで、ななせの大学受験の為に学費稼いでたらしいよ」  「マジでー!?すごーい!!」  「母子家庭だから、父親代わりもやってたって」  空き教室で同級生の女子達が話している。  「いつき」  顔を上げると、ひろむが立っていた。  「・・・大丈夫か?」  「・・・なんで?」  「なんか、顔色悪いぞ?体調悪いのか?」  ひろむはそう言いながら、僕を心配そうに見る。  「・・・ひろむ」  「ん?」  「お前は本当に良い奴だな」  「なんだよ、急に」  「ななせの事、好きなんだよな?」  ひろむは黙った。  その顔には、困ったような悲しんでいるような思いが滲み出ていた。  「・・・ごめん」  「素直だな。笑」  「・・・ごめん、いつき・・・でも俺」  「いいよ」  「え・・・」  「・・・ななせには、ひろむの方がお似合いだよ」  僕は笑い、ひろむの横を通り過ぎる。  ひろむに呼ばれた気がするが、振り返らなかった。  「あっ、黒沢くん!」  ななせの取り巻きに声をかけられる。  「最近のななせ、前みたいに明るくなってきたよねー」  「やっぱり彼氏の力だよー。さすが黒沢くん!」  口々に騒ぐ女子達に僕は何も言わずに聞いていると、1人が言った。  「ほら、黒沢くんてさ。そのー・・・妹さん亡くしてるじゃん?やっぱり家族を亡くしてる者同士の方が、お互い分かり合える所があるのかもねー?」  僕は肩が揺れる。  女子達は「確かにー」と同調している。  僕の妹の死を、恋愛話のダシにされた気がして、頭に血が上る。  「僕の妹は、お前らの下らない笑い話の為に死んだんじゃない」  笑い合っていた取り巻き達が静かになった。  「それに人が死ぬのも、それなりの理由があったんだろ」  そう吐き捨て歩き出す。  取り巻き達がざわざわしていたが、目もくれず教室へ向かう。  教室へ入ると、ななせが僕の椅子に座っていた。  「遅いぞー」  ななせはそう言って笑い、立ち上がる。  「帰ろう、いつき」  ななせが微笑む姿を見て、僕は決意した。
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