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最寄りのバス停に向かっている途中、雷が鳴る。
空を見上げると同時に、バケツをひっくり返したような雨が降ってきた。
「うわー最悪ー!」
ななせがスカートの裾を絞りながら喚く。
僕はびしょびしょになった鞄からタオルを出して頭を拭くと、ななせが手を伸ばす。
「私にも貸して」
「・・・汗くさいかも」
「気にしないし」
そう言って手を伸ばすななせに根負けして、タオルを渡す。ななせは笑いながら頭を拭いた。
「今日雨降らないって言ってたのにー」
「多分夕立だから、すぐ止むと思う」
そう言って2人で、誰もいないバス停の屋根の下のベンチに座る。
「ありがとね、いつき」
ザーザー降り続ける雨を眺めていると、ななせが言った。
「一緒にいてくれて」
そう言って微笑むななせ。髪から滴る雨水に、僕は見てはいけない気がして目を逸らす。
「・・・大した事はしてないけど」
「そんな事ない。一緒にいてくれるだけで、うれしいもん」
そう言いながらななせは足をゆらゆら揺らす。
「・・・ななせはさ、何で僕と付き合おうと思ったの?」
僕の質問にななせは勢いよく顔を向ける。
「・・・そんな事聞く?」
「なんとなく・・・駄目だった?」
「・・・だって恥ずかしいし」
「そっか・・・」
沈黙の中、雨の音だけが響く。
「・・・いつきって、やっぱ変わってるね」
「そうなの?」
「うん。他の男子と何か違う・・・変」
「そうなんだ・・・」
「でも・・・そう言うとこが・・・好き」
消え入りそうな声でななせが呟く。目線を向けると、顔が真っ赤だった。
内臓が潰されるような感覚に陥る。
「・・・僕は、ななせが思うような奴じゃない」
宙を見ながら呟くと、ななせが不思議そうに見つめる。
「人間誰だって、裏では何してるか分からない」
「・・・どういう意味?」
「君のお兄さんと同じ」
「・・・え?」
雨が地面を刺し続ける。
「・・・君のお兄さんを殺したのは、僕だから」
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