夢オチ

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 それを見送ってから、へなへなとソファーに座り込んだ。とんでもない病気になってしまったものだと思いつつ頭を抱え込む。  私は子供の頃から小心者で怖がりだった。あらゆることにいつもびくびくしながら生きてきた。そんな私がどれだけ悪夢に耐えられるというのか。私には打ち勝つ自信がない。眠ってしまえばきっとその恐怖に慄き、あっという間に命を落とすのは目に見えている。乗り越えられる可能性もゼロではないだろうが、たとえ治るのだとしても悪夢に苛まれるのは耐え難いことなのだ。どうせ死ぬのなら安らかに逝きたいものだ。悪夢にもがき苦しみながらあの世に行くなんて勘弁してもらいたい。でも、罹ってしまった以上そういうわけにはいかないだろう。  だったらいっそ、このまま眠らないというのはどうだろうか。もしかしたら今も、この病の特効薬がどこかで開発されているかもしれないのだ。人は眠らずにどれだけ生きられるのかわからないが、それまでに実用化される可能性だってあるはずだ。眠らなければいずれ死ぬかもしれないが、悪夢に苦しめられて死ぬよりはましかもしれない。  翌日から私の闘病生活……というより闘眠生活が始まった。妻も私の説得に同意してくれたし、会社の人間や友人たちも協力すると言ってくれた。  1日目2日目と順調だった。多少頭がボーっとするくらいだ。だが4~5日過ぎたあたりから異変が現れた。だんだんと考えることが面倒くさくなり、仕事でミスを連発した。イライラして集中できず、時折吐き気に襲われる。話をしようとしてもろれつが回らなくなり、自分でもなにを言っているのかわからなくなった。ついにはありもしない幻覚まで見えるようになった。  苦しい。眠い。でも、悪夢は嫌だ……。  ああ、私はどうすれば……   「旦那さん、大丈夫ですか?さっきからすごく魘されていますけど」  お見舞いに来てくれた会社の人が、ベッドに横たわる夫を心配そうに見つめている。 「眠っている間は、いつもこうなんです」 「そうなんですか?こんなに苦しむなんて、いったいどんな夢を見ているんだろう……」 「きっと、悪夢病に罹った夢でも見てるんじゃないかしら」  だって、この病に冒されることを夫は何よりも恐れていたのだから。
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