第七話 邂逅する者、惜別する者(4)

8/10
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/321ページ
「おやおや、トラブルですかな?」  耳聡く、状況を悟って富豪は首を傾げた。  ミヤコとしては富豪にこれ以上関わりたくないので、はぐらかそうと思ったが―――、騎士隊長が余計なことを言ってくれた。 「恐れながら、何者かの悪戯で宿泊予約がキャンセルされたのです」 「何と…!それは大変ですな。他の当ては?」  案の定、富豪は食い付いてきた。  心配している様子だが、腹の底では皮算用中だろう。 「ご心配なく。こちらの伝手で…」 「リースマン様、しかし…」  物言いたげな隊長に内心、黙れと思った。 「大賢者殿、よろしければ我が家で今宵は羽を休めては如何でしょう?ご満足頂けるかは分かりませんが、食事もご用意出来ます」  やはり予想通りの提案が降って掛かった。  しかも、よりによって自宅に招くとは―――…。  柔和な口調ながら、不自然な笑みに背中に寒気が走った。  この男に不必要に恩を売るのは賢明ではない上、後日どんな見返りを求められるか分かったものではない。 「しかし、今からそんな…」 「何!未来の巫女をお泊め出来るのは我が家としても誉れ!遠慮はいりません!」  押しの強い富豪にミヤコは怪訝な顔を隠せなかった。  どうにかせねばと考えを巡らすがオーナーは未だに戻らず、騎士隊長は一転して口を噤んでいた。
/321ページ

最初のコメントを投稿しよう!