9人が本棚に入れています
本棚に追加
/321ページ
「おやおや、トラブルですかな?」
耳聡く、状況を悟って富豪は首を傾げた。
ミヤコとしては富豪にこれ以上関わりたくないので、はぐらかそうと思ったが―――、騎士隊長が余計なことを言ってくれた。
「恐れながら、何者かの悪戯で宿泊予約がキャンセルされたのです」
「何と…!それは大変ですな。他の当ては?」
案の定、富豪は食い付いてきた。
心配している様子だが、腹の底では皮算用中だろう。
「ご心配なく。こちらの伝手で…」
「リースマン様、しかし…」
物言いたげな隊長に内心、黙れと思った。
「大賢者殿、よろしければ我が家で今宵は羽を休めては如何でしょう?ご満足頂けるかは分かりませんが、食事もご用意出来ます」
やはり予想通りの提案が降って掛かった。
しかも、よりによって自宅に招くとは―――…。
柔和な口調ながら、不自然な笑みに背中に寒気が走った。
この男に不必要に恩を売るのは賢明ではない上、後日どんな見返りを求められるか分かったものではない。
「しかし、今からそんな…」
「何!未来の巫女をお泊め出来るのは我が家としても誉れ!遠慮はいりません!」
押しの強い富豪にミヤコは怪訝な顔を隠せなかった。
どうにかせねばと考えを巡らすがオーナーは未だに戻らず、騎士隊長は一転して口を噤んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!