第一話 メルシュリーヴァ魔術学校にて(1)

4/12
前へ
/321ページ
次へ
 歴史の教科書を読み上げて行く、クラスメートの淡々とした声が響く。  静かに過ぎていく時間の中、窓辺の席から下の校庭を見下せば、陽の暑さをもろともせず、真剣な眼差しで球技に取り組む生徒が声を荒げている。  そのすぐ脇を流れる清流では、けたたましい生徒の声も気に留めず水鳥が集まり、餌付けされて丸々と太った派手な魚がその横を悠然と過ぎ去った。  不意に涼しい風が頬を撫で、大きな欠伸が零れる。  教卓前の担任に見られまいと、下を向いて息を吐き出した。  何気なく教室を見渡すと、既に風の誘惑に負けた生徒が数人、机に項垂れている。  その中に仲の良い友達もいたので後でノートを貸してあげようと思いつつ、順番が近付いてきたことに気付いた。  頬杖を突いて視線を手に持った教科書に戻した。 「はい、では次、リースマン」  ここぞとばかりに名前を呼ばれ、短く返事をして起立。  一つに結ったキャラメルの髪を揺らし、教科書の文字を追った。 「はい、お疲れ様。では、ここまでの説明で……」  音読を終え、席に着くと同時に担任が黒板に体を向ける。  予め書き込まれていた説明文に、言葉交じりにさらさらと追加される文章を同じように鉛筆でノートに書き込み、ちょっと大事そうな担任の言葉も逃さずメモする。  今年の担任は優しくて教え方も上手く、生徒や保護者からの人気も高いが、授業から脱線した面白いがどうでも良い蘊蓄が多かったり、かと思えば試験に出る重要なことをサラリと流して話してしまったりと授業中に油断が出来ない。
/321ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加