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「お待たせしました」
静けさに包まれる室内に、凛とした声が嫌に大きく響く。
その声に弾かれ、母は不安の色を滲ませながら腰掛けていたソファから娘を抱えたまま立ち上がった。
知らせを受けて駆け着けたのは、亜麻色の髪の麗しき淑女―――、今上の時導の巫女シエナだった。
「あぁ、ミヤコさん、そのままで。お嬢さんが起きちゃうわ」
歩み寄ろうとする少女の母を留め、背を摩りながら共にソファに腰掛ける。
母親のその顔色は良いとは言えなかった。
自宅から遠方のこの地に来るまでの間、殆ど眠れなかったに違いない。
「今、マーリンとヴァネッサにも声を掛けて来たわ。時機に必要な物を持って来る筈よ。大丈夫、何も心配はいらないわ」
柔らかな口調で、不安を隠せない彼女を落ち着かせる。
その言葉に娘を抱きしめ、ミヤコは緊張の糸が切れたのか、悲痛な表情を見せた。
「すみません…、私の力ではあまりにも…っ…」
目を伏せ、言葉に詰まった。
突如、愛娘の身に降り掛かった出来事に酷く動揺していた。
「シエナ、お嬢ちゃんの様子は?」
足音は抑えつつ燃えるような赤毛の女性が慌てた様子で駆け付けた。
彼女は手に持っていた箱をシエナの足元で開くと、その中に入っていた水晶の様な石に目を見張った。
「メルダース鉱石がこんなに光るなんて…、橙色の色彩反応ってことは、風と光を司るセルタ石だな…」
光り出す石を取り出して少女に翳しつつ、その他、必要な道具を次々に取り出していく。
シエナはそれらの道具を手に取りながら少女の胸や手足に触れ、身体的な異常の有無を確認した。
暫しの診察の後、幸いこれと言った病気などは見受けられなかった。
「やはり、マナセルタで間違いなさそうね。力が覚醒したようだわ…」
「こんな小さいのに…」
「ところでヴァネッサ、マーリンは?」
「念の為、魔力制御の道具を取りに向かって貰った。そろそろ来ると…」
使い終わった道具を片付けながら、ヴァネッサがそう言い掛けた瞬間だった。
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