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「…卒業まで…か…」
開けてもらった特別室のテラスから小さくなるベルリルフ島を見つめ、サハナは小さな溜息を零した。
短い滞在期間の間に色々なことがあった。
嫌な思いも怖い思いもしたが、結局は楽しかった。
ルコウや城の人々との時間は掛け替えのないものだった。
「ご主人?」
不意に背の影から、するりと現れたテオが足元に擦り寄る。
腰を屈め、聖地で得た新しい相棒を抱き上げた。
「寂しいですかにゃ?」
「うん。寂しい」
素直な気持ちだった。
きっと次に来る時には嫌になるほど忙しない日々が待ち受けている。
今は寂しくとも、すぐに弱音なんて吐いてなんていられなくなる。
己の背にある指名を果たすため、明日からの日々は有意義に使わなければいけないのだと感じていた。
「ご主人にはテオがおりますにゃ」
頬を舐め、励ますようにテオは喉を鳴らした。
そんな相棒に溜め息交じりの笑みを零した。
今から気負っていても仕方ない。
やれることをやるまでだった。
「風が気持ち良いわね…」
そんな声に振り返る。
母かと思ったが違った。
トワだった。
少し疲れた様子は拭えないものの、何処かさっぱりした顔をしていた。
「トワ小母さん…、休んでなくて大丈夫ですか?」
一昨日の事もあり、彼女の体調が気に掛った。
船が出る直前に至っては、なかなか化粧室に行ったまま暫く出て来ず、母のミヤコが心配して迎えに行った程だった。
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