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「こんなことなら、さっさとセラスタに戻るべきだったわ」
宿のロビーにてミヤコは頭を抱えた。
セラスタは首都の隣にあり、自宅はその端ではあるが、船が到着してすぐであれば特急列車で帰れなくもなかった。
宿のオーナーの厚意で、他の宿を探して貰っているが、夏季休暇の最盛期であるこの時期である。
見つかるとは思えなかった。
「こうなったら最悪ベールクオン城に泊めさせてもらうわ。北の大賢者に次期時導の巫女がいるんですもの。融通してくれる筈」
そう告げ、ミヤコはフロントへ。
通信機を借りようとしたが、慌てて駆け寄った騎士隊長に止められた。
隊長は騎士団側で連絡を入れると言い、彼女をロビーのソファに戻した。
「…ったく、気が利かな過ぎだっての」
戻って来たミヤコは嫌味を込めて文句を零した。
聖地から迎えに来た時も然り、首都を守る騎士にしてはどうにも配慮に欠け、この事態にも危機感が無さ過ぎると感じていた。
――この騎士団、本当に国王からの勅令派遣なのか?
そんな疑問が頭を過った時だった。
ざわざわと次第に賑わい出した宿の外に、何事かとファイダンが様子を窺いに行った。
窓から外を確認した彼はぎょっと肩を揺らし、大慌てで駆け戻って来た。
彼はミヤコに耳打ちし、それを聞いたミヤコはあからさまに怪訝な表情を浮かべた。
「ファイダン君、マサト君。サハナをお願い」
棘を持った口調に男子二人に緊張が走った。
直ちに空腹でソファに力無く座るサハナの両サイドを固めるように配置に就き、仁王立ちで宿の玄関を睨むミヤコの背を見つめた。
外からの喧騒と取り巻きの如くパパラッチを引き連れ、玄関扉が堂々と開かれる。
やってきたのは、これぞ正しくと言った富豪の男だった。
手には下品なまでの重そうな指輪や腕輪を嵌め、胸にはこれでもかと徽章が付いている。
上等な生地で仕立てられたであろう折角の礼服もこれでは台無しだった。
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