9人が本棚に入れています
本棚に追加
「遅くなりました」
駆け足で部屋に飛び込んだのは、ブロンドの紳士だった。
彼は母の腕に抱かれた幼子を目にした途端、息を呑んだ。
「子供じゃないか…!」
思わず、思ったことが口を吐いた。
その子はまだ五つ程―――、感じていた力を持つには、あまりにも幼過ぎると眉を潜めた。
「マーリン、静かに」
指を立て、ヴァネッサが怪訝な顔で睨む。
ハッと口を押え、彼は肩を竦めた。
危うく少女を起こすところだった。
「ミヤコさん、覚醒時の様子を聞かせて貰えますか?」
改まった様子で、シエナが問い掛ける。
戸惑いながらも母ミヤコは頷き、淡々と状況を説明し始めた。
「六日前になります。友人の家族とピクニックに出掛けていたのですが、そこで突然、大量の蜂に襲われてしまって…。あまりの数だったので、急いで魔術で撃退したのですが取り逃がした一匹が娘を刺して、その瞬間…っ…」
目を伏せ、労るように娘を抱きしめる。
子の小さな手には、蜂に刺されたことを物語る絆創膏が張ってあった。
「自己防衛による本能的な覚醒ですね。刺されたことが引き金か…」
小さな手を握り、マーリンは溜息を零した。
大人でも大量の蜂に襲われたら、一溜りも無い。
小さな子供にしてみれば、恐怖の何物でもなかった筈だ。
「これほどの魔力じゃ来るまで大変だったでしょう?大魔女のリティア殿が連絡を寄こすだけあるな…」
腕を組み、ヴァネッサも溜息交じりに肩を竦めた。
「私が使える封印魔術で、どうにかこちらまで魔力を押さえて来ましたが、娘がぐずる度に破られるのではないかと冷や冷やしていました…」
深い溜息を零す彼女に、シエナはその背を労うように摩った。
そんな時だった。
最初のコメントを投稿しよう!