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「ねえ、おかあさん。ふぅはいないの?」
ふと母を振り返り、サハナはそんな質問を投げ掛けた。
母は困ったように笑って、娘の頭をやや乱暴に撫でた。
「本当に、ふうちゃんが好きねぇ…!残念だけど、ふうちゃんはここには来られないの」
「どおして?」
「ここには力のある人しか来られないの」
「ふぅは力あるよ!あたしより重い物持てるもん!」
「うふふ、その力じゃなくて魔法の力のことよ」
「ふぅもあるよ!おてて、キラキラ出来るもん!」
「うーん、そのくらいじゃ、ちょっと厳しいかな…」
困り顔の母に対し、サハナは段々と剥れ出した。
「ふうちゃんというのは、お友達かしら?」
首を傾げ、シエナが尋ねる。
途端に目をキラキラさせながらサハナは、こくりと頷いた。
「ふぅは、お利口なの!あたしより小っちゃいのに、すごいの!」
「幼馴染の子です。サハナの一番のお友達で、いつも遊んで貰っている子です。六日前のピクニックの時にも一緒でした」
説明するように、ミヤコが言葉を付け足す。
しかし、その言葉にサハナはピクリと肩を揺らした。
「…サハナ?」
急に固まった娘に、どうしたのだろうと顔を覗き込む。
その表情は何かに怯え、強張っていた。
「…ハチさん…いっぱい…っ…ぶんぶん…音…っ…」
両耳を塞ぎ、カタカタと震え出す。
その震えに連動するように俄かに風が強まり、外から窓ガラスをガタガタと揺らし始めた。
「こわい…っ…いたい…こわい…っ…!」
涙ぐみ、しゃがみ込む。
瞬間、彼女を守るかのように何処からともなく翡翠色を纏った風が沸き起こり、その小さな体を包み込み始めた。
「不味い…!」
危険を察し、マーリンが身を乗り出す。
彼はサハナの両頬を掌で包んで強引に顔を上げさせると、呪文を唱えながら恐怖に涙で濡れた瞳をじっと見つめた。
彼の瞳は淡い褐色から深い夜空の色へと移り変り、サハナはその色に吸われるように意識を奪われ、カクリと眠りに落ちた。
同時に彼女を包み込まんとしていた風は、制御を失ったように散り散りになって消滅した。
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