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「…っ…、…何て、魔力だ…」
母の手にサハナを渡し、マーリンはふらつきながら目頭を押さえる。
目の前がチカチカした。
「マーリン、大丈夫か?」
途端に顔色を悪くした相方の背を摩り、ヴァネッサは眉を潜めた。
「…この術で意識を奪うのに、これほど疲れたことはありません…っ…。恐ろしく力が強い…」
頭を振り、額に滲んだ汗を拭う。
その様子に、シエナは怖い程に真剣な顔をした。
長い付き合いで、彼の力量は良く理解していた。
理解しているからこそ、目の前の小さな体に宿る力がどれほど恐ろしい物か―――…、嫌と言うほど思い知った。
「…封じましょう」
その一言にその場の誰もがシエナに目を向けた。
「この幼さで、この力はあまりにも危険だわ。小さな感情の揺れで容易く魔力暴走を起こし兼ねない…。覚醒してしまった力を記憶ごと封じましょう」
そう告げ、眠るサハナの額に手を当てた。
仄かな温もりに気が付いたように、小さな瞳が睫毛の合間から細く微かにシエナを見つめる。
微睡みの中、聞える大人達の会話―――、心地良い様な怖いような声のトーンに、再び意識が沈み始めた。
「今日のことは他言してはなりません。この子が己の力をコントロール出来る歳になるまでは…、使命を背負うその時までこの力は封じます」
その場の全員にシエナは言い聞かせた。
皆一様に短く返事をして深く頷き、肝に銘じた。
「ミヤコさん、どうか気を付けて。この子は、破壊の女神にも調和の女神にも成り得る器…。決して、間違った力の扱い方を教えてはなりません」
母に対し、強い口調で告げられた言葉―――…、それを最後に重たい瞼が下り、サハナは再び深い眠りに落ちた。
「サハナ…、どうか、健やかに…」
祈るように囁き掛け、目を伏せる。
長い長い古の言葉を一言一句、間違うことなく唱え、掌に意識を集中する。
この子を守れ、健やかに育てと、強い願いを込めた。
時導の巫女として、己の後を引き継ぐ者を護る為―――、己の知る限り最も強い封印を、シエナは未来の弟子に施した。
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