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瞬間、悲鳴と共に瞼を見開き、掛け布団を蹴飛ばして飛び起きた。
脈打つ鼓動と乱れた呼吸に暫く呆然とし、汗で額に張り付いた前髪を掻き上げる。
けたたましく鳴り響く目覚まし時計を乱暴に止め、大きく溜息を零した。
また、この夢か―――…。
これで、何度目だろう。
何に驚いて何に怯えたのか、それすら思い出す暇も無く、起きると消えて行ってしまう妙な夢―――…。
両の目から零れて頬を伝う、いくつもの涙だけがその夢を見たという証だった。
見慣れた自分の部屋の風景に安堵しながら、時計の示す時刻を改めて確認。
いつもの起床時間だ。
早速、支度の為いつものように壁に掛けていた学校の制服を手に取った。
「おはよう、サハナ。今日はちゃんと起きたね」
「おはよう。寝覚めは最悪だけどね」
手早く身支度を済ませ、父と洗面所で朝の挨拶。
「朝ごはん、チャチャッと作るから、待ってて」
顔を洗い、髭剃り中の父の脇を掻い潜って、キッチンへ向かう。
いつもの手順で冷蔵庫から卵と肉を出し、フライパンを棚から取って、背中で冷蔵庫の扉を閉めた。
「肉の味付けどうする~?」
コンロに火を点け、フライパンに油を垂らしつつ父に質問。
「任せる~!」
いつもの返答に自分好みのハーブ塩に決定した。
油が温まった所でお肉を投入し、蓋をしてパンを焼き始める。
パチパチと香ばしい音を立てながら油が跳ね躍り、美味しそうな香りがキッチンに漂う。
その香りに腹の虫が、待てないとばかりに鳴り出した。
「お、今日もご馳走だね」
朝食が出来ると同時に、仕事着に着替えた父がテーブル下に仕舞っていた椅子を引く。
「冷蔵庫の冷えが悪いから仕事の帰りにこれ買って来てね。あとお風呂場もストック無いから」
そう言いつつ、テーブルに置いたのは青い電球のような物―――。
ここでは無いと困る生活必需品だ。
「風呂場って…!この前、換えたばかりじゃないか!長風呂し過ぎだろう…!」
「お父さんだって湯船浸かりながら仕事のあれこれやって長いじゃない。お互い様!」
言い返しつつ焼き立てのトースト、鶏のハーブ塩焼きと目玉焼き等々が乗った皿をテーブルに置いた。
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