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「ねぇ、私も食べていい?」
「はい、もちろん」
女の子にも切り分ける。
女の子は一口食べると目を見開いた。
「何コレ……今まで食べた事ないくらい美味しい!甘くて食べやすいし、こんな味初めて!」
「砂糖がなくて、サトウキビみたいなのがあったから使わせてもらいました。調味料は無いけどオーブンとかの調理器具が揃ってて良かったです」
「サトウ?サトウキビ?何それ?」
「置いてあった草です」
「あの草使ってこんな美味しいもの出来るの!?」
「はい」
「ちょうみりょう……?とか言うのはよく分からないけど、貴女って天才!これは革命だと思う!」
「大袈裟ですよ」
「ううん!だってあの草とか実とか使ってこんな美味しいもの作れるなんて、貴女は神様みたい!」
そんな風に言われると恥ずかしい。
ていうか、さっきから『草』とか『実』とか言ってるけど、食材に名前って無いのかな?
魚とかも『魚』って全部言われたし……。
「そうだ!これからも貴女のふるさとの料理教えてもらえないかな?こんなにも美味しい料理があるなら、皆にも食べてもらいたいし!」
「もちろんです!私でよければ!」
女の子と笑い合っていると女の子が「あ!」と言った。
「自己紹介がまだだったよね!私はリン!えっと、貴女は……」
「私は玲です」
「レイね!レイのふるさとってなんて街なの?」
「日本です」
「二ホン?聞いたこと無いなー。どの辺にあるの?」
「ここからずっとずっとずっと遠い場所にあるんです。平和で穏やかで……争いごとが無い場所でした」
帰れる方法は無いみたいだけど……。
来たばかりだからか恋しく思ってしまう。
勉強が好きだったわけでもないし、バイトが楽しかったわけでもない。
それでも、友達やバイト先の仲間、家族、親戚……。
皆に会えないと思うと寂しくなる。
一緒にこの世界に来てくれたにゃん太郎には感謝だ。
「へー、そんな場所があるなら行ってみたいな。何せこの国は今、魔獣が現れて王国の騎士団が毎日のように討伐に出向いている状況だし」
「安全ではないのですか?」
「騎士団のおかげで国民は安全に暮らせてるよ。でも、傷だらけで戻って来てる騎士団の人達とか、酷い時は死人もいるみたいで。歴代で類を見ないくらい魔獣が凶暴だって噂。だからあまり不用意に外を出歩かない方がいいって言われてる」
確かにチェイスさんも魔獣がいるから気を付けてって言ってたな。
魔獣なんてファンタジーゲームの中でしか見たこと無いから、実際に会ったらどう思うんだろう。
やっぱり怖いだろうな。
この世界では魔法が全てだ。
その中で私に魔力はないそうだし、魔物に出会ったら一瞬であの世行きだろうな。
そう考えたらぞっとして、私はアップルパイを食べきって立ち上がった。
「材料とか厨房とか使わせてくださってありがとうございます」
「いいよ、それくらい。レイにはこれからもお世話になりそうだし。ていうか、もう私達友達なんだから敬語は無しだよ!いつでもここに来てね!」
「友達……!ありがとう!」
この世界に来て初めての友達。
明るくて可愛い女の子。
私はにゃん太郎を抱きかかえながらリンに手を振った。
お城までの道のりを歩いていると不意ににゃん太郎が腕の中から飛び出した。
「あ、にゃん太郎!」
こんな勝手知らぬ場所で迷子になられては危険だ!!
あわてて追いかけて行くと、にゃん太郎は森の中に入っていった。
私も追いかけながら足を踏み入れると、にゃん太郎はピタッと止まった。
「ようやく止まってくれた!もう、何して……」
そう言ってにゃん太郎が見ている先を見れば、木にもたれかかってぐったりしている男の人がいた。
凄い怪我をしている。
その傷口を見るに、今まで見たことが無いような怪我の仕方をしていた。
つまりそれって……。
「魔獣……」
そう呟いて固まっていると、私の足元に来たにゃん太郎が「にゃあ」と鳴いて私はハッとした。
そうだ、この人を何とかしてあげないと!
チェイスさんと同じような服を着ているところを見れば、この人は恐らく騎士団の人と言う事だろう。
周りに人が居ないのは何故だろう。
「大丈夫ですか!?私の声、聞こえますか!?」
返事が無い。
息を確認すると、細くだけどしていた。
この血をなんとか止めなければ。
でも、私は救急キットなるものを持っていない。
それに応急処置ってどうやってするのかさえも不明だ。
どうしよう……このままじゃこの人が死んでしまう。
綺麗な青い髪の間から見える赤い血。
男の人に触れると、側から妖精が二人目の前に現れた。
背中にキラキラ輝く羽を持った小さな人間のような姿は、漫画やゲームで見た妖精そのもの。
男の子と女の子の妖精は泣きそうになりながら私の手に触れた。
この子達は、チェイスさんに憑いているサラマンダーと同じ精霊だろうか。
この人に憑いていて、この人を助けたいと願っているように思えた。
「……この人を抱えて帰ろう!」
ぐったりしている男の人を抱えようと腕を回した瞬間だった。
私と男の人の周りに不思議な綿毛が飛んだ。
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