桜ノ夢

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 その中でもひときわ有名な男がいた。陰陽寮の陰陽師たちが手に負えない事態になっても鮮やかに解決してしまう男。  凄腕の陰陽師が丁寧に作った呪いを虫けらのように返し、鬼を鎮めてしまう最強の陰陽師。あまりにもとんでもない逸話が多かったため、影で「鬼神の子」などと呼ばれ、恐れていた。しかも、この男自体は何の修行も積んでいないのに様々な逸話を生み出していたため、余計恐れられていた。  「鬼神の子」と呼ばれるのはその容姿も関係していた。  濡れ羽の髪を下ろし、雪のような肌と薄くて赤い唇はまるで、若い女のようにも見える。白い狩衣を身にまとい、薄桃色の羽織を肩にかけている様子は、正しく鬼神のように神聖で畏怖を感じさせるただ住まいだった。  更に、彼が住んでいるという京の都の外れ、鬼門に近い場所にある彼の屋敷は、常に藤の花が咲き乱れ、季節の花や景色が美しいと噂になるほどだった。それもこれも、全て鬼神が起こした奇跡なのだとか、特殊な呪術を使っているとか言われていた。  真相は果たしてどうなのか誰も知らない。知っていたとしても彼の名誉のために誰も言わないだろう。
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