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 そもそも、焼香しようとして訪れた私は拒まれ、阻まれた身であるから長居するわけにもいかない。もう出て行かなくちゃいけない。    さっきから「あの方、どうして追い返されたのかしら」とか「同級生のお母様かしら、もしかしていじめでもあったのかしら」など、憶測をにおわせるヒソヒソ話と、興味を持った視線が向けられて、背中がぴりぴりと細かい針で刺されるような、わずらわしく、それでいて無視できない痛みも、ものすごくうっとうしい。    やっぱり、行くだけお互いに「嫌な思い」をするだけだった。  早退などするんじゃなかったと後悔し、唇をぎりりとかむ。    通夜に間に合うよう仕事を早退する旨を伝えたはいいけれど、本当かどうかと古参の女性社員のじろじろと、どんより濁った、疑いを含む目が私を見つめていた。    本当のことなんだから堂々としていればいいものを、悪い癖というか私は黙り込んでつい、うつむいてしまうせいで余計に疑われてしまう。
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