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 なのに自分では払うことも拒否することもなく、今日だって汗ではりついた前髪をがさがさと手櫛でかきながら、思い出して落ち込んでいるだけ。こんな自分はなんだか「自分がない」というか、後回しにされているようで、後回しにしているようで悔しい。    いい加減、どこかに全部投げ捨てて、身軽になりたいと考えてしまう。    なんて、「お姉ちゃん」だから、できやしないんだけど。    受付で記帳し、香典を渡そうと母から借りた、黒いサテンのハンドバッグを開いていたら、ぐいっと、力を込めて肩をつかまれ、弔問の列から引き離された。  自分の身に何が起きているのかわからないまま、されるがままでいる私を、肩をつかんだ人物はじろりと見上げて、ふんと鼻息をふきだす。 「あ、あの……?」 「あの、じゃないです。あなた、よく大きな顔をして梨絵ちゃんのお通夜に来られたわね、お名前を拝見して呆れちゃったわ」   母と同年代ぐらいの、やや肥えた女性が黒い五分袖のワンピースに、やはり黒い弔事用らしき、裾に控えめなフリルがついたエプロンをして、私を見上げて睨みつけていた。
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