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 声を詰まらせ、女性はぐいぐいと力任せに、香典袋をサテンのハンドバッグへ押し込む。  その様子に、私まで、ぐっと胸が詰まってきた。 「……わかりました」 「わかったなら、早く出ていって。あなたが来ても、もう、梨絵ちゃんは……」  ぐす、ぐすと女性が鼻をすすり、エプロンのポケットからハンカチを取り出すと、それをパッと広げて顔を覆い始める。泣いている姿を、私に見られたくないというあらわれなのが伝わって、同時に周囲の視線が弔問の列に並んでいた時よりも、より鋭く、細かく、ちくちくと刺しこんでくる痛みをおぼえた。 「すいません、失礼、します……」  私は女性に向かって一礼すると背を向け、斎場を後にした。    病弱な母の代理とはいえ、気持ちをぶつけられたりする状況に遭遇するのはつらいところだ。遺族である梨絵ちゃんの母親と、誠一郎くんという名前の少年には申し訳ないことをした事実は事実であったとしても、受け入れるべきは私じゃなく、妹の朋子なのに、いつも私はこういう時に、矢面に立たされて、それが「当たり前」な立場でいさせられる。  たったひとつ、「お姉ちゃんだから」という理由で。
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