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でもそんなのどうでもよかった。
今だけは自分たちの世界でいたかった。
どうして離れなきゃならないのか、なんて宇佐美の方が沢山思った。
だってそれは、真宏と付き合う前から分かっていた事だった。だから宇佐美は真宏と付き合う訳にはいかなかった。
けれど、どうしたって真宏を好きになってしまった。
真宏を好きで、好きで、たまらなくなってしまった。
だから付き合ってしまった。
そしたらもっと好きになってしまった。
そしたら離れたくなくなってしまった。
けど、神様なんていないのだ。
結局宇佐美は、真宏と離れる。
泣き叫ぶ真宏の肩に顔を埋めて、宇佐美は涙を押し殺した。
─……真宏、俺はお前をずっと愛すよ。
言ってはいけないその言葉を、吐き出した息とともに心で呟いた。
真宏は、呼吸を落ち着かせてから、宇佐美の両頬をいつものようにあたたかく包む。
涙を拭うこともせず、流し続ける。
「これだけは絶対に覚えておいてください」
「生き続けること。何があっても絶対に」
「俺はずっと貴方を信じています。これだけは何があっても忘れないでください」
涙を零しながらも、しっかりと宇佐美の瞳を見つめ、真宏は伝えた。
宇佐美も苦しそうに微笑んで「分かった」と頷く。
こんな顔を見るのもお互い最後なのだ。
目に焼き付けて、目を瞑ったらすぐに思い出せるくらいに。
「宇佐美」
「うん」
「大好きだよ」
「……っうん」
「ずっとずっと、大好きだよ」
「っ、うん」
「この世で一番愛してます」
「俺も愛しとる……っ」
「大好きだよ」
「俺もや」
「……へへ。最後は、笑顔にしましょっか」
「はは。せやな」
「ばいばい、うさ先輩」
「……元気でな、伊縫」
最後に、どちらからともなく顔を寄せ合いキスをして、どちらからとも無く距離を離す。
もう何も、思い残すことがないとでも言いたげに背を伸ばして、今度こそ1度も振り返らず宇佐美は真宏の前から去って行った。
見えなくなった宇佐美の後ろ姿をいつまでも見つめ、真宏は呟いた。
「さよなら先輩。俺はずっと貴方のものです」
陽の光に当てられてキラリと光るピアスを指先で弄びながら、空へ向かって微笑んだ。
END.
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