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宇佐美はいかにも面倒くさそうにそっぽを向いてボーッとしていた。
「っテメェのせいで、スズが……!!」
「……いや、はじめから言うてるやん。俺は誰のもんにもならへんねんボケ」
なんだなんだ、何の話だ?
「クソヤリチンが!!どうせ捨てんなら簡単に手ぇ出してんじゃねぇよ!!」
「俺から出したんとちゃうしー。女が勝手に寄ってきたに決まってるやん。責任転嫁やめてくださぁ〜い」
「テメェ……ッ!!!」
再びキレたらしい男が宇佐美に拳を振りかざした。真宏は思わず飛び出して、「す、ストーップ!!!」と間に入ってしまう。
「……ッ」
……が、拳の勢いは止まらず男の鋭い右ストレートは真宏の左頬にダイレクトに入った。
そりゃあそうなる筈である。真宏は喧嘩が得意ではないし、何より先にも言ったように運動神経が宜しくない。
間一髪で避けられるようなヒーロー体質でも勿論無い。
「い゛でえ……」
思わず蹲って抑えると、男は「な、なんだよお前!!今はこのクズと話してんだよ!!」と怒鳴り散らしてくる。
いやいやいや!!俺も痛いんだけど!!
「……暴力、良くないんで……」
ほっぺたを抑えつつ顔を上げて言う真宏に男は「ッはあ!?」と更にボリュームを上げた。
今度は真宏が標的になったらしい。荒々しく胸倉を掴まれた。
「うるせぇな!!お前に俺の気持ちが分かるかよ!!」
ボロボロ涙を零しながら怒鳴られる。
……いやぁ、正直言って分からんな。何の話だ?うさ先輩が、この人の女の子を寝とった話?
正直言ってこれだけ泣いてる姿を見せられるとそりゃあ確かに可哀想だな、くらいは真宏も思うし同情はする。
けれど、同時に「今更なのでは」とも思っていた。
「……ほら、この人ってそういう人らしいじゃないですか」
真宏はゆくっりと立ち上がり慰めるでもなくそう言うと、男は「……は?」と眉を寄せ真宏を見つめ返していた。
「だってこの間も女の子にぶん殴られてましたよ、この人」
何故か目で追ってしまうようになった真宏は知っている。宇佐美が先週、七日間きっちり毎日違う女の子にぶん殴られていた事を。真宏はそれをたまたま目撃して普通にドン引きしていたのだ。
「……うわぁ……」
男も、それを目撃した真宏と同じ顔をしてドン引きしつつ宇佐美を見ていた。
「だから、貴方が先輩に怒鳴り散らしても殴っても無意味だと思うし、……その時間を逆に、その女の子に使ってあげた方が、いいんじゃないですか?」
こてん、と首を傾げて言えば男は呆気に取られた顔をして「……お、おう……?」と間抜けな声を出す。
真宏はその様子に安堵して、ニッコリ笑う。
「じゃあ、俺にごめんなさいってしてください」
「え?」
「え、じゃないですよ。俺、頬っぺたジンジンするのでちゃんと、ごめんなさいって言ってください」
ムスッとして言ってやれば、男はまた眉を釣りあげて怒鳴はじめた。
「お、お前がいきなり間に来たんだろーが!!状況分かっててすっ飛んで来たのはテメェだろ!!」
「それはそうだけど、悪いことをしたらごめんなさいってするのは当たり前の事でしょ!?」
ギャンギャン吠え合う真宏達をぼんやりと黙って見ていたらしい宇佐美は、堪えきれなかったのか唐突に「くく……っ」と声を出した。
「……え」
真宏が驚き振り返ると、宇佐美は口を抑えて肩を揺らしていた。
「……せやなぁ。あかん時はごめんなさい、やなぁ」
宇佐美は「あー久々にわろた」と目尻の涙を拭う。その仕草がスローモーションのように見え、ついうっかり見惚れていた。そう言えば、出会った時以来こんな近くに来たのは初めてかもしれない。
……じゃなくて、
「アナタも謝らなきゃ……」
真宏は慌てて視線を逸らして宇佐美にもそう言った。宇佐美は自分も言われるとは思わなかったのか、「え?」とキョトンとした顔で真宏を見つめ返してきた。
「先輩が悪いことしたから、この人は怒ってるんですよね?じゃあ先輩もごめんなさいって言わなきゃ……」
宇佐美の深い碧の瞳を見つめながら言えば、宇佐美はずっと頭にハテナを浮かべていたらしいが、唐突にすんっと表情を元に戻し、真宏から視線を逸らして頬を膨らませた。
「やだ」
「……え?」
思わぬセリフに驚き、宇佐美を凝視する。
「俺悪くないやん。嫌や」
拗ねたような顔で言う宇佐美に、真宏は「はあ!?」と声を荒らげた。
「いやいや悪いでしょ!!どう考えても悪いでしょ!!」
「悪くない。俺なんも悪いことしとらん。全部そいつが悪い」
ツンっとそっぽ向いて言い切った宇佐美に、男はまた怒りのボルテージが上がってしまった。
「テメェふざけんなよ!!」
「テメェやないですぅ〜宇佐美ですぅ〜」
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