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何故か負けじと煽り続ける宇佐美と、相も変わらず短気な男が喧嘩をはじめてしまい、真宏は二人を交互に見比べて「はあ……」とため息を吐いた。
そして、彼らの後頭部に掌をしっかりと当てて、ガツンッとお互いの額をぶつけさせた。
「い゛っ!?」
「っでェ!?」
真宏は混乱した顔で見てくる二人に、ビシッと指をさして声を荒らげた。
「二人とも、今すぐごめんなさいってしなさい!!!
俺に!!!」
そう言いきると、二人は少しの間を置いて何やら思考していたようが、同時にハッとして口を開け声を揃えて叫んだ。
「なんでやねん!!」
「なんでだよ!!」
おお、本物の「なんでやねん」だ…………と、真宏は呑気に感動していた。
「で?喧嘩の間に入って殴られたけど2人に正座して謝らせたって?」
額に青筋を浮かべたハゼに真宏は恐縮しつつも「……はい」と素直に返事をし視線を逸らしつつ話した。
朝登校した時からハゼと久我に「ほっぺどうした!?」と聞かれ続け、のらりくらりかわしていたらついにハゼがキレたので昼休み、正直に話した。
「なんで真宏はいっつもそうなの!!なぁんで面倒事に自分から首突っ込むの!!」
ガミガミ怒られ、俺はクゥン……と耳垂れ犬のようにしゅん、となる。
「……だって、喧嘩はよくないし……」
「喧嘩は良くないけど、真宏の間に入り方は危ないでしょ!!なんで後先考えずに行動しちゃうかなあ!?」
ハゼは腕を組んで真宏を教室の床に正座させた。
真宏はしょんもりとして俯く。
だって、あのままじゃ乱闘になってたかもしれないし……だって……だって……。
「まあまあ真宏は無事だったんだし良くね?」
久我は面倒くさそうに見知らぬ女の子を膝の上に乗せながら真宏をフォローした。
「ねぇ隆く〜ん、ヒナにもそのジュースちょ〜だい?」
「おー」
……くっ、相変わらずモテモテだな遊び人め。
真宏が恨めしい視線を向けていると、背景に轟轟と燃え盛る炎を纏ったハゼが仁王立ちして真宏を見下ろしていた。
「真宏!!!僕の話をちゃんと聞いて!!!」
「すみません……」
久我と女の子が「あの子なんで怒られてんのー?」「さあ」と話しつつイチャイチャしながら真宏を横目で見ていた。
「もう危ない事しないで。僕か久我が駆けつけられない時に余計なことに首突っ込まないこと。分かった?」
「…………う〜ん」
「返事は、"はい"一択!!!」
「はい」
「宜しい」
ハゼはまだ少し怒りつつも、真宏の手を取って立たせてくれる。
「心配なんだからね、一応」
自分より背が低いハゼに見上げられた真宏は、「ごめんね」と笑った。ハゼは女の子みたいに細くて小さいけれど、真宏より力があって空手の黒帯を持っている有段者だ。
下手したらこの学年……いや、この学校の誰よりも強いのかもしれない。
久我は運動神経や勘がいいので基本的に何でもそつ無くこなせてしまうらしい。それは勉強も然り、女遊びもまた然りだ。ハゼのお説教から解放された真宏はやっと机椅子に座り直して三人で弁当を食べはじめる事が出来た。
今日も涼雅お手製の最高のランチタイムである。
「俺は真宏が傷を作ってくる度に次は何に首を突っ込んだのか、聞くの結構楽しみだけどな」
他人事である久我にハゼが「こっちの心臓がもたないっつーの!」と反論しているのを聞き流しつつ、真宏は大好きな塩唐揚げを口に含む。
お弁当用にはいつもニンニク控えめなのを入れてくれるのは涼雅の優しさである。
「てかさあ、うさ先輩に好かれちゃったらどーすんの?」
「なんで?」
ハゼは眉を寄せてソースのたっぷり付いたミートボールを口いっぱいに頬張った。
「えー、だってあの人さあ……」
「え、真宏くんうさ先輩のこと好きなのー?」
久我の膝の上に座っていた名前も知らない女の子がハゼの言葉に被せて発してきて、驚いた目で真宏を見る。
「え!?違う違う!!」
慌てて弁解をすれば、女の子は安心したように目を細めて「良かったあ」と笑った。
「ん?ヒナ、良かったってどゆこと?」
久我が不思議そうに女の子に問いかけると、女の子──ヒナ──は苦笑して久我に向き直る。
「いやうさ先輩の事好きになると、ろくな事無いから止めとけって言おうとしたの〜」
ヒナと呼ばれた女の子はもう興味が無くなったのかそれ以上話す素振りは見せず、菓子パンをモグモグしている。
けれどそんな中途半端な情報を流されて止められたら、誰だって嫌でも気になってしまうではないか。
「ろくな事無いって?」
案の定ハゼが興味津々にヒナを見て続きを促していた。
「ほら、うさ先輩って色んな噂が流れてるでしょ?その中のいくつかは事実もあって……」
ヒナは口元に人差し指を当て、「えっとねー」と頭の中で聞いた話を思い出していた。
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