出来損ないヒーロー #1

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ドアップで綺麗な顔が視界に写り、一瞬だけ怯んでしまったがウィンナーをモグモグしつつニコニコと向けられる視線に腹が立った真宏の中でふつふつと怒りが湧き上がる。ほんの一瞬、コンマ1秒程だけ顔が好みが故に見惚れてしまったが、そんな事より人の弁当を勝手に食うなんてどういう教育受けてんだこのヤリチン!!! 「ちょっと!!俺のウィンナーなんで食べたの!?何しに来たんですか!!返せ!!」 怒りに任せて怒鳴れば、宇佐美はキョトンとしつつウィンナーを摘んで油がついた汚れた指をさも当たり前かのように真宏の制服に擦り付けていた。 「おい!!人の服で拭くな!!」 「それシャレ?おもんなぁ〜」 狙ってもいない洒落を鋭く指摘され、怒りのボルテージはどんどん上がっていく。真宏が抗議してやろうと立ち上がった時、そのままグイッと腕を掴まれた。 「へ」 「ちょっと来て」 さっきまで人のウィンナーを食べやがっていた忌々しい手足長オバケに引っ張られ、真宏は状況が把握出来ないまま教室から連れ出されてしまった。宇佐美の教室でも無い、空き教室でもない、ましてや特別教室でもない。 あらゆる教室を無視し、階段を何度も何度も上がらせられる。 「っねぇ、先輩!!どこ行くの?俺まだ弁当……っ」 痺れを切らして問いかければ、さも面倒くさそうにチラリと流し目で見られてしまう。 「うっさいなあ。着いて来れば分かるやろ」 ウザそうに顔を顰められ、真宏の中にイライラが募る。 なんだコイツ!勝手に俺のこと連れ出しといて!アポ無しで!!しかもウィンナー!!俺の!!なんで食べたんだ!! 食べ物恨みは怖いとよく言うが、まさにそれだ。怒りで頭を掻きむしりたくなり掴まれていない側の腕を持ち上げようとした時真宏は、はた、と気づいた。 ……俺、お箸持ったままじゃん。 その間抜けさに気づいたとき、一気に怒る気が失った。されるがまま連れられるがままに足を進めていくと、ガチャリと鍵の開く音がし、錆び付いたような金属音がきこえた後ぱあっと視界が開け思わず顔を上げる。 「……え、屋上?」 何故か箸だけを大事に持って屋上に来る高校生は世界中探しても、自分だけな気がする。 「他に何があんねん」 相変わらず腹立つ言い回しのコイツを無視して、初めて入った屋上にこっそりはしゃいでいた。普段は立ち入り禁止であるし、駄目だと言われているところにわざわざ危険をおかしてまで立ち入ろうとはい思わない。けれどやはり高校生の憧れなのだ屋上は。何をするでもなく学園ドラマの真似事かもしれない。けれど一生に一度かもしれない感動に、真宏は思わず柵に駆け寄り身を乗り出して下を見ようとした、その時、 「うわっ!?」 さっき掴まれた時の比ではない力強さでがっしり腕を掴まれ、柵から体が離されていた。 「……え、なに?」 驚いて宇佐美を見上げると、何故か宇佐美自身も至極驚いた顔をして真宏を見下ろしていた。普通の人なら間抜け面になってしまうような表情でも、この男はやはり違うのだな、と彼の端正な顔を見上げてぼんやり思った。 「ていうか、なんでここに連れて来たんですか?俺、弁当途中だったのに」 不機嫌さを隠さずに言えば宇佐美はハッとして我に返って、真宏から手を離した。 「ああ……。お前に頼みたい事があってな」 「……え?」 あの宇佐美が人に頼み事をするなんて、と驚きつつも顔を上げ見つめ返した。宇佐美はいたって真面目な顔で真宏の肩をしっかりと掴んで真剣な顔で言った。 「付き合うてや、昼寝に」 「……は?」 これまで生きてきて、こんなに心の底から「は?」と思ったことがあっただろうか。それくらい真宏は一瞬で困惑し、思考が止まった。昼寝を一緒に、とはどういうことなのだ。今流行りの添い寝フレンド……通称ソフレというやつをご所望なのだろうか。それなら何も真宏でなくても宇佐美はよりどりみどりではないか。剰え真宏は男だ。選べるほど人が集まってくるのだから、体の構造的にも柔らかい女の子の方が断然いいに決まっている。この綺麗な顔を真宏に向ける暇があるのなら女の子に向ければ一発で了承してもらえるだろうに、と心の中で真宏は思う。 勿論宇佐美自身そんなことは百も承知なのだ。それが分かっているからこそ、彼は真宏を選んだのだから。 真宏はポカンと口を開け、宇佐美を見上げる。 「何やその顔腹立つな」 「いや……いやいやいや……は?」 そんな宇佐美の心など知る由もない真宏は何度考えても理解ができなかった。 「え、勝手に寝れば良くない?」 理解もできないし、仮にそれに付き合うとして真宏にとって何がメリットになるのだというのか。というかお昼寝タイムが必要とか、お前は保育園児か、 と内心ツッコミたくなる。思わずぽろっと言葉を溢せば宇佐美は顔を顰めて、「それが出来るんやったらやっとるわ」と言う。
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