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「雪凪(せつな)、ごめんね」
寝ぼけたままリビングに降りた私を、母はそんな言葉で迎えた。
「どうしたの?」
「舜(しゅん)が熱出しちゃって。雪凪、お願いしても良いかな?」
「分かった、良いよ」
申し訳なさそうに仕事に出掛けた母を見送って、私はスポーツドリンクや冷えピタを探す。舜は昔からよく熱を出していた。
私は頬を赤くした舜が好きだった。
「舜、入るよ」
返事は聞こえないけど、気にしない。布団にくるまった舜が、うっすらと目を開けた。
「大丈夫?」
「せつ、何で…?」
舜は私のことを「せつ」と呼ぶ。それは二人きりの時にしか呼ばない、秘密の呼び方。
「お母さん、仕事あるし。それに、弟の看病は姉として当然でしょ」
本当は、ただ舜と話がしたかっただけ。でも正直にいう勇気はない。黙って舜の額に冷えピタを貼って、ベッドの端に座った。
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