第5話 「懸念3」

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第5話 「懸念3」

深呼吸を繰り返し、精神状態を落ち着かせた在過は、不安そうに見つめる神鳴に向き直る。 「これから話すのは、僕の家族についでだけど。あまり人に話したくない過去でもあるけど、神鳴には聞いてもらいたいと思う」 「うん。在過のこと、もっと知りたい」 「わかった」 ゆっくりと、在過が経験した過去を話す。 在過の母親は、多額な借金を作っている女性だった。パチンコと不倫相手に、毎日のように貢ぐ母親。 当然、返済ができなくなった母親は、小学4年の息子である在過に、親戚のおじさんにお金を借りるよう頼み、当時の在過は公衆電話を使って連絡を取ったおじさんに、一年間で約500万ほどのお金を借りる代行をさせられていた。 さらには、自分の夫の財布からもお金を盗むようになっており、在過の父親は息子が盗んだと思い込んでいたようで、そのたび・・・・・・何度も何度も殴られ続けていた。 血を吐き、家の階段から突き落とされ、腕の骨が折れることまであった。しかし、それを母親は見て見ぬふり。父親には「僕はやってない」と訴えても信じてもらえない。そんな1年は、生きた地獄だった。 しかし、在過が誕生日の日にすべてが崩壊した。 学校から帰宅した在過は、家に両親以外に祖母が訪ねてきていることを知る。母方の祖母は、ずっと土下座をしており「申し訳ない・・・・・・申し訳ない」と何度も謝っていた。 その隣で母親が泣いており、父親は鬼のような形相で土下座する祖母を見ている。 父親が、祖母に向かって「貴方とは、これ以上話すことはない。帰ってくれ」と言っている。 その時の在過は、小学5年ではあったが、聞こえた内容だけで事情を把握するほど、関わり過ぎていた。 母親の祖母は、娘が多額の借金をしており返済できないことを父親の会社まで行って、土下座して謝りに来ていたらしい。 父親は、母親の借金を肩代わりするために、自分が借金をして母親の借金をすべて返済した。それは知った在過は、愛した母親のために動く格好いい男を見せていたが、在過は知っていた。父親は自室で誰かに電話をして、何度も謝りながら「お金を貸して欲しい」と何度も何度も、色んな人にお願いしていることを。 プライドが高く、短気な父親だったが、母親のために頑張っていたんだ。 けど、数週間後に再度母親が多額の借金をしており、破産宣告をして帰ってこなくなる。 それからすぐ、父親も帰ってこなかった。 数日後に、母方の祖母が「ごめんね」と育ててくれることになる。 もし、両親が蒸発するだけなら幸せだったのかもしれない。 在過は、祖母の家で暮らすようになってから、妹から「いつ帰ってくるのか?」を聞くことに疲れていた。 「お兄ちゃん? いつお母さん帰って来るのかな?」 「ごめんな。いまは帰って来ないけど、友理奈を迎えに来るって連絡があったんだ」 「本当に!! いつ? いつ来てくれるの?」 「いい子に待ってたら、迎えに来るって」 「そっか・・・・・・うち、おばあちゃんに料理教えてもらって、お母さんに作ってあげよ」 「いいな。お兄ちゃんにも作ってくれよ」 「いいよ」 帰って来ることのない母親を待ちながら、前向きに妹は祖母に料理を教えてもらい過ごしていた。 泣く頻度も、母親のことを聞いてくる頻度も減っていたと感じた在過だったが、状況が一変した。 妹が嘔吐を繰り返すようになっていたんだ。 一日に嘔吐する回数が増え「大丈夫だよ」と一言いうだけ。 最初は風邪を引いたと思っていたが、妹が倒れたと連絡を聞いた在過は、運ばれた病院に迎えに行く。 医師の話を聞き、摂食障害の疑いがあると言われた。 一緒に住んでいたはずなのに、体重が落ちていることも、体力が落ちて嘔吐していることも風邪だと思い込んでしまっていた。一週間ほど入院生活を過ごした妹が、退院して家に戻ってくるなり号泣してしまう。 「・・・・・・友理奈のせいでごめんなさい。お母さんが帰ってこないのは、友理奈がいい子じゃなかったから。ごめんなさい。ごめんなさい」 「馬鹿やろ! お前のせいじゃねぇよ。大丈夫、絶対に俺が守ってやるから心配するな」 「うぅ・・・・・・うぅぁうあぅああ、嫌だぁ、お母さんに会いたい・・・怖いよぉ・・・・・・なんで、いなくなっちゃたの」 「大丈夫だから、ずっと俺がいるから」 「やだやだやだ! お母さんぁん~、どこ行ったの! 帰ってきてよぉ、どこにもいないよぉ。どこ行っちゃったの」 在過は、泣き崩れる妹を抱きしめることしかできなかった。 まだ学生である在過には、何もできない。 それから、摂食障害の症状は悪化していくばかり。嘔吐を繰り返し、倒れては入院を繰り返す日々。 母親の祖母自信も借金を背負っている人だったため、そもそも裕福な生活も送れなかったこともあり、数年後、在過は高校進学を諦め、就職して妹の入院費や今後の事態に備えて働く。 「それで、現在はリストカットや自殺未遂もしてしまうこともあって、精神病院にいるよ」 「そう・・・・・・なんだ。いつ退院するの?」 「今のところ分からない」 「そっか」 「今までお付き合いした人も、この事情を知って離れていったよ。神鳴も無理と思うなら、遠慮なく言ってくれていい」 「ん~よくわからないけど、気にしないよ」 在過は、アニメを観ながら話を聞いている神鳴に対して「家族の話をしてもよかったのだろうか・・・・・・」と、懸念が残ってしまった。
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