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仕事をマッハ定時で終わらせて
っと僕は
車を走らせマンションに戻る。
いつもと同じくキーを預けっと
マンションエントランスから
入り口に立って、
頭を下げるこれまた
イケメン男が目に入るんね。
一昨日世話になった
有能コンシェルジュの彼なんよ
これがまたイケメン。
僕は片手を軽ぅー上げて
「ただいま!一昨日は
ありがとうね。助かったよ。」
ルーティンに声を掛けて
礼を言うわけだ。
『お帰りなさいませ。とんでも
ございません。私達の職務で
ございます。いつも奥様から
ご依頼頂きます場所ですから、
造作もございませんでした。』
雰囲気は子犬っぽいんだよ彼。
って、
いつも?依頼する場所?
目の前で
柔らかーくスマイルする
子犬君コンシェルジュの言葉に
僕んは眩暈する。
「えー、ごめんね。ちょっと妻は
出産で入院することになって。
よければ妻が頼んでいたことが
他にあれば教えもらえるかな?」
ウソゆーてないよな。うん。
今はまだ妻カレンの事は
公にせん方向やけど。
『それは。わかりました。
日常的な申し付けは、今のとこ
ろございませんが、依頼頂きま
したモノがございますので。』
子犬っぽい雰囲気を
真面目な顔にして
コンシェルジュ君がカウンターを
探っと
僕に書類封筒を差し出したん。
「ありがとう。うん、これ?」
しかもこれな、なかなか
意外な大きさなんやが。
『はい、どうぞ資料はお持ち帰り
頂きまして、奥様にご確認を頂
きましたら。あ、お加減良い時
で全く構いませんので。はい』
それにコンシェルジュ君の
言い方やと
妻カレンは何度か九州、
おっそらく門司にいっとるゆー
ことんなるよな。
そんまま
マンションのモダンな
エレベーターを上がっての
最上階。
僕らの部屋へと玄関入って
いまとなりゃよけい
無駄に広いリビングに向かう
廊下をいきながら
「それに、これってさ、」
僕は渡された、
資料封筒の口んから覗いた。
ふと
気が付くと
「きたね、カレンさん。」
後ろ姿の妻カレンが
彼女の部屋ん前に立ってますな。
「今日はここ?」
僕が誘われるみたく
白いドア開けっと、
実はここ部屋やなくて
夫婦の寝室を真ん中に両サイドに
あるウォークインクローゼットん
真ん中のドアなんよね。
その奥の窓辺に
お互いのデスクスペースがある。
実は寝室だけの入り口が
ないタイプなのだ。
「考えっと、カレンさんとこ
そんなに入った覚えないなぁ」
そんな事を気が付いた僕。
不在?の合間に入るんは罪悪感
感じっけど、
どっちにつけ
妻カレンの転院や手続きや
やらんならんし、
昼休みにキヨヒコがゆーてた、
『ありゃ、まだなんかカレンさん
に送りつけてるかもな、、、』
ちゅー推測もある。
ここは、ごめん!
クローゼットもそりゃ
サンクチュアリやろうけど
デスクはもう秘部やで!!
悶絶!!
妻のデスクスペースは
やっぱし僕が贈った香水が香る。
これ
もはや妻カレンの匂いぞな。
「さてと、いつもの逃げた
ホストんみたく、家捜し開始
ってのはどーも色気ないな。」
絶賛独り言爆裂中で
僕んはデスク周りを見回す。
と壁のインテリアフレームに
飾られていた風景。
意外!驚くってよ。
これ、新婚旅行に行った時に
カレンが撮った景色やよ。
いやいやふつう、
ここは旦那である僕との
ツーショット写真を飾るべきっ
しょ?!
ツンデレさ満載か!うちのお嬢!
「懐っかしー。4年なるか。」
思わず手にした封筒から中身
出して、フレームん写真と
見比べっと、
僕の頭に
ハネムーンは何処にするかって
話してた場面が浮かぶんよ。
『カレンさんが行きたい処に、
どれだけでも行っていいですよ』
『・・・・』
『どうだ!セイシェルにドバイ!
奇をてらってマチュ・ピチュに
南極なんかもいいかもな!』
『あのな、カレンも俺たちも
全部行ってるだろ?折角の
ハネムーンだ、宇宙旅行だろ』
『あのー、お義兄さんたちは
もしかして、ついて来られる
とかですか?新婚旅行に。』
『当たり前だな、アマネ。家族
全員ついて行くに決まってる』
『あははは、ですかー。』
『アマネさん、わたくしアマネ
さんの育った所行きたいです』
『え?あの僕、何んにもない島
の出なんですよ?いいんです?』
『 ええ。兄の言うとおり海外は
概ね観光地は行って今更です。
わたくし田舎の島は行ったこと
がありませんし。行きたいです』
『はあ、』
『アマネの島か!いいな!じゃ、
国内だし俺たちのスケジュールも
取りやすいな。決定だろ!!』
『あの、本当に来るんですね。』
えー、お察しのとおり、
セレブお嬢様との
嬉しい恥ずかし新婚旅行を
たった2泊3日んしたのは、
義理家族が全員ついてきた
からだっての。
あんな中で新婚2人でどーとか
あるはずない。
「あー、これ港な。」
幾つもあるフレームに
納められた風景は
「絵になるんかなー。」
本当に昔は何もない
隔離されたような島で
教会に併設された
養護院が
めぼしい施設やったけど、
養護の子らを
島んみんなが面倒みてくれた。
「港のアートな。」
今、島が芸術祭の一環に入り
思った以上に
観光地観光地に
なってた4年前は
海外からも人が来てて、、
「こんな人きてるんな。」
ただ、海も自然も
島の不便さも
そのままで、
僕んとっては ゆりかごみたいな
島は
ちゃんと変わってなかった。
妻カレンが
『こんなところで、育ったから
貴方って純粋で愛されるのね』
って、捨てられた赤子だった僕に
無表情やのに
柔らかげに呟いたんが
いやに耳ん覚えとる。
残酷で愛おしい令嬢な妻。
「カレンさん、どーゆーつもり
なんな?島の家に、船って、」
僕は
後ろ姿の妻に向かって
コンシェルジュから受け取った
資料を半ばヤケになって
デスクに
それを乱雑に放り出す。
妻カレンは島の邸宅不動産と、
船のパンフレットを頼んでいた。
「僕んためか、子供ためんか、
それとも僕ん追い出すとか?」
上手く乗っからなかった資料が
バラけてデスクから床にと
落ちて拡がる。
妻の後ろ姿の前に一面。
「八つ当たりだよねー。」
僕は
くくっと苦笑いして散らばる紙を
拾いあげる。
どうやら、デスクに乗っていた
モノも一緒に落ちたらしい。
白黒のフィルムみたいな
モノが
可愛いペーパーフレームに入って
混じってるのに気が付いた。
「これ?!お腹の写真か!」
手に取っと
ドラマでみるよーな
ザラついた砂嵐な白黒画像に、
その端っこ
カレンの綺麗な文字で
『5週目初めてのエコー』だけ
そっけなく書いてるモノ。
中央左に見える黒い楕円が、
子ーなんやろか?
担当医は妻カレンは20なん週に
なる言ってた?忘れたけど
きっと今は
こんな小さい黒い点なんか
じゃなく
「もしかして人ん形なっとる?」
そうもっと
胎児胎児してんじゃなかろーか。
その事実を想像して、
目の前に立つ後ろ姿の妻に
僕は
寒気がした。
「ん?」
散らばって、デスクん奥に
入り込んだ紙の最後に手をかける
と、今度は
よせばええのに
これまたゴミ箱に目がいった。
「これ、、なんだよ。」
さほど溜まってないゴミの上。
千ん切られた写真。
明らかにテレビん盗撮っぽく
撮られたやつの
切れ端に僕ん顔がある。
そのままゴミ箱をひっくり返して
床で他んゴミと写真を
僕は荒い息で分ける。
千切られた写真をパズルみたく
組合せてるが、
これがけっこームズい。
なにゆえ?!と考えとったら
出来上がりつつなると
わかってきた。
「おんなしとこの、おんなし
アングルで、時間差でとっとる
からやろ。っとに、誰ぞな!」
苦心の末に組上がった写真は
2枚。
僕があの、帰って来んかった日に
いたホテルんとこ出る僕の写真。
んて、おんなじ場所から、
おんなし様に出てくる
ヤシロ女史やろ。
なぜに。
『ヴーーー!ヴーーー、』
電話のバイブでタモツが
メッセージしたとわかる。
妻カレンがホステス仲間ん
連れて行ってたクラブに
ワタリつけてくれたんだろな。
『どーする?アマネ行くか?』
短い文章が
自動で表示された。
僕は苦い顔して床に出来た
写真から視線を電話にやると、
パンフレットとまとめた資料の
上に白黒画像写真を置く。
その先にあるストッキングの踵を
下から足首、ふくらはぎ、
膝裏、腰、と見ていく。
背中に流されてたポニーテール。
その後ろ頭。
後ろ姿の妻は、今どんな顔を
しているのか?
もはや、
顔など、もう無いのか。
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