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先輩は人気者
待ちに待った入学式。制服のスカートは、ひらひらと心もとない。一年生だし、校則どおりの長さだからひざ下丈だけど、それでもなんだか落ち着かない。体育館に入場するための列に並びながら、裾を引っ張った。
入学式は新入生とその親が出席する。在校生は生徒会役員の先輩たちだけ。たった一、二歳の違いだけど、黙って前を見て式にのぞむ姿は、ずいぶんと大人びて見えた。
「本校、生徒会長より歓迎のことば」
そして、会長として登壇したのはなんと。
「新入生の皆さん、ご入学、おめでとうございます・・・・・・」
マイクを通さずともよく響く、ちょっと掠れたところがまたたまらない、いい声。近くに座っている女子からは、私と同じく、うっとりした息が漏れている。
生徒会長は、なんと、サッカー部キャプテンの東地海人さんだったのだ!
私立中学を倒して、県大会ベスト4まで勝ち残ったことのあるサッカー部のキャプテンで、しかも生徒会長。まさしくこれって、文武両道ってやつ?
うちの学校の男子制服は、何の変哲もない黒の学ランなんだけど、海人先輩が着ていると、なんだかとても素敵な服に見えるから不思議だ。
結構な長さのあいさつ文だが、さっきの校長先生やPTA会長の話みたいに苦痛は感じない。むしろもっと聞いていたかったのに、先輩のあいさつは、すぐに終わってしまった。
「いっしょに楽しい中学生活を送りましょう。星ヶ丘中学校生徒会長、東地海人」
じゃばらに折った紙を包みに戻して、彼は客席に深く一礼した。顔を上げて、ぐるりと私たちを見回して、にっこりと微笑んだ。
その瞬間、ここは味気ない体育館ではなくなっていた。王子様が、お城のバルコニーから下々の人間に向かって、笑いかけている。
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