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「あっ!」
階段の途中だったので、短い大声に足を滑らせそうになった。小さく溜息をついて、くるりUターン。
「どしたの」
「ああ、あかね。お姉ちゃんがお弁当忘れていっちゃったの!」
ダイニングテーブルには、ピンクのチェック柄のお弁当袋が置きっぱなしになっていた。
みどり姉は、兄妹の中じゃ一番のしっかり者だけれど、年に数回、こういう小さなミスをする。いや、まぁ、私やお兄ちゃんは落ち着きがなくて、しょっちゅうやらかしては、お母さんに怒られてるんだけど。
こりゃ、私のお昼ご飯かな。
中身はなんだろう、と覗き込もうとする手を、お母さんに止められた。
「そうだ、あかね。あんたお姉ちゃんにお弁当、届けてあげてちょうだい」
「えー」
昨日買った雑誌、読み終わっちゃいたかったのに!
ブーイングはさらっと無視された。お母さんは名案だと、小さい保冷バッグに包みを入れた。ついでだから、と麦茶のペットボトルも入れて、手渡してくる。
「一週間後には、毎日通うことになるんだから、道の確認がてら行ってきなさい」
「はぁい」
我が家の最高権力者は、お母さんだ。
お父さん? ないない。毎月お小遣いアップの交渉をしては、きっぱりと断られている。そのときの情けない姿といったら、まるで我が家のもうひとりの子どもだもん。
渋々支度をして、私はおつかいに出かけるのであった。
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