爽やかな春風とともに

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 小学校までは徒歩五分だった。どんなに寝坊しても、朝の身支度をスキップすればギリギリセーフで登校できていたけれど、中学校は違う。歩いて二十分かかる。  だから自転車で行こうとしたんだけど、お母さんに見つかって怒られた。自転車通学は禁止でしょうが、って。  まだ生徒じゃないんだからいいでしょって言ったら、「そういう問題じゃない」って。  じゃあどういう問題なのさ、と反論したかったけれど、ずっとにらんでくるもんだから、諦めて徒歩で学校に向かう。  姉と同じ部活に誘われているから、どうせ姉妹で行き帰りいっしょになるというのに、意味なんてあるのかな。  すっかり春めいた空気に、自分の吐息を混ぜながら、スタスタ歩く。嫌なことは早めに終わらせよう。走れば五分は短縮できる。  すぐに、手元のトートバッグの中身が、カタコトと音を立てた。  しまった。みどり姉のお弁当箱だ。ぐちゃぐちゃになってたら、怒られる。できる限り静かに、でも速く。注意しながら早歩きだ。  二十分かかるかかからないかで、中学校のグラウンドが見えてきた。小学校のものよりも、広く感じられた。思わず立ち止まり、部活の様子に見入ってしまう。  土地柄、サッカー部に入部する男子は多い。四月から通う市立星ヶ丘(ほしがおか)中学校は特に、公立の学校ながら、強豪校のひとつに数えられていることも、もちろん知っている。  とはいえ、こんなに部員がいるとは思わなかった。学校指定の体操着じゃない、揃いの黒のジャージを着ている人たちは、レギュラーかな。体格がいいし、指示を出す声もハキハキしている。背中の「HOSHIGAOKA FC.」の文字も、なんだかオシャレなデザインだ。
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