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道中、すれ違う人全てに怯え震えながら自分にひっついてきた時、理性が爆発しそうで危なかった。必死に唇を噛み締め、爪を手の平に食い込ませて痛みで誤魔化し耐えた。今ここで上書きセックスしても自分には問題ないが、流石に弱りきっているこの子を押し倒して突っ込む程由伊だって鬼では無い。細い腕を必死に由伊の腕に巻き付けて、人間への恐怖心と戦う彼。
強く腕を掴まれる度に、『この人なら平気』だと言われてるようで由伊の心は勝手に舞い上がった。
暫く歩いて家に着き、まずは律をお風呂へと促す。
流石に色々洗い流したいだろうし。
「律くん、これタオルと着替え……俺の置いとくから、出たらちゃんと着るんだよ」
律は扉を閉めようとする由伊を不安げに見つめつつも、渋々といった様子でこくん、と一つ頷いた。
「いい子だね」
律の頭を撫でて、穏やかに笑い脱衣所を出る。さて、あの子が風呂に入っているうちに救急セットを買ってこなければ。
家に常備しておかなかったことが悔やまれるが、それは置いといて、財布を持ち再び家を出た。
近くにドラッグストアがある事を思い出し、足早に店に入る。絆創膏に、ガーゼ、消毒液と、包帯、それからテープと、熱冷まシート、体温計など諸々全部買い込んだ。あと、温かいスープとココアなんかも買っていってあげよう。彼はいつも甘い物を食べているから、きっとココアは好きだろう。
「よし」
大方買い込んで満足した由伊は、再び足早に家へと帰った。律が風呂から出てしまう前に帰って居たかった。無人の他人の家程、怖いものは無いだろうから。
そう思い急いで玄関を開けたその時、目の前の光景に由伊は少し声が出そうになった。
「律くん⁉どうしたの!」
扉を開け靴を脱ぐ段差の前には、タオルにくるまった彼が何故か体育座りをしてぎゅっと丸まっていた。由伊は慌てて駆け寄り、律の頬を撫で体温を確かめる。
「どうしたの、こんな所で……。洋服着たくなかった?ちょっと冷えちゃってるよ、律くん」
心配になり、律の顔を覗き込むと律はまたぽろぽろと涙をこぼして由伊を見つめた。
「どうした?どっか痛い?」
優しく訊くと、律は恐る恐る由伊のシャツをぎゅっと掴んでぼそぼそと言った。
「……おいて、かれたかとおもった」
その弱々しい声に、由伊はギュンッと強く心臓を持っていかれた気分になり、その衝動を抑えるため思わず目の前のか弱い彼を強く抱き締めた。
「黙って出ていってごめんね。手当するのに色々買ってきたんだ。さ、服着て暖かい部屋に行こうね」
幼い子供をあやすように、自分を掴んで離さない律を抱き抱える。
軽々と持ち上がってしまった律に痛々しさを感じながら、丁寧にソファに降ろす。
それでも律の手は由伊のシャツから離れない。律自身も由伊に迷惑をかけたいわけではなかった。自分の行動に驚きつつも、やはり不安や恐怖が勝っているようで自分でもあまりコントロール出来なくなっていたのだ。
しかし由伊はそんな律に対して文句を言う事はなく、微笑みながら、「お洋服持ってくるからちょっと待っていて」だなんて優しく言ってくれる。
律はそれでも心がザワついた。不安げに瞳を揺らしてまた由伊に甘えて「……いく」と言ってしまう。
律は甘えてしまった事に自己嫌悪を感じているが、そんな事は露知らず由伊は勝手に舞い上がっていた。
このまま閉じ込めてしまいたいと思うくらいには。
「……じゃ、一緒に取りに行こうね」
再び彼の手を繋ぎ、一緒に脱衣所に行き洋服を持ってまたソファに戻ってきた。
大人しく下着を履かせてもらった律は、その間もずっと由伊のシャツを存在を確認するかのようにずっと握っていた。
「ちょっと手当てするけど、消毒液、滲みたらごめんね」
彼は何も答えないけれど、由伊は勝手に手当てを進める事にした。
まずはおでこと、口の端の殴られた傷、腕と足の切り傷に消毒液と絆創膏を。手足と、胴体の殴られた赤黒い痣には熱冷まシートと包帯を。少し怯えていたけれど「大丈夫だから」と言い聞かせ、律の小さなお尻を見せてもらい軟膏を塗った。四つん這いで座薬を入れるような格好になってしまう律は、羞恥に顔を真っ赤にしていたけれど由伊は流石に浴場はしなかった。
寧ろ爛れているすぼまった皮膚を見て、苛立ちが再燃してきていた。
ふと律を触っていると、由伊は何だか彼の身体が熱い気がして体温を測ってもら事にした。
ピピピと電子音が鳴り表示を見ればやはり微熱が出ていたので狭いおでこに熱冷まシートを貼ってあげた。その冷たさにちょっと、ぴくっ、と顔を顰めていたのが可愛かった。
そして彼の傷ついた心が治るように、温かいココアと俺の温もりをあげなければ。
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